King Gnuが「The hole」で見せた、今を生きるバンドとしての覚悟 渾身の『Mステ』パフォーマンスから感じたこと

 もし事前に常田の呟きがなくても、もともとこの曲を聴いていた人たちやファンは、彼らが今「The hole」を選んだ意味を感じ取れたと思う。曲を知らずにたまたまテレビをつけた人の心にだって、特別な響きを持って届いたはずだ。この日のパフォーマンスはKing Gnuというバンドの覚悟であり、今この時代に「心苦しさ」を感じながら生きている人々への励ましだったとも言える。それはもちろんパフォーマンスの熱からも伝わってきたし、絶望的に立ち込める暗闇と微かな希望の光が混在するメッセージ性の強い歌詞も、今だからこそより深く共感できる要素があった。

King Gnu - The hole

 しかし同時に、「The hole」という曲やKing Gnuの音楽が人の心を動かすのは、歌詞以外の部分も大きいと改めて実感した。それはきっと理屈ではなく、音楽理論でもなく、メロディや歌声、楽器の音が持つ「感覚的な共鳴力」なのかもしれない。音楽は歌詞がなくても、表現している世界観やメッセージは確かに宿っている。ふとした瞬間、お店で何気なく流れてきたピアノの音色にどうにもならないほど心を奪われて、思わず泣き出しそうになってしまうように。頭で考えるよりも先に自分の心と感覚的に合致する瞬間こそ、音楽が持つ本当の力が発揮されているのかもしれない。「The hole」のパフォーマンスを観終えた時、冷たい雨に打たれたようなひんやりとした余韻を感じ、それが徐々に体の芯から痺れる感動へと変わっていく感覚を覚えながら、そんなことを思った。

■渡邉満理奈
1991年生まれ。rockin’on.com、Real SoundなどのWEB媒体を中心にコラム/レビュー/ライブレポートを執筆。

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