Moses Sumney、Kate NV、Sonic Boom……実験精神と歌心に満ちた鬼才の新作5選
Blake Mills『Mutable Set』
エリック・クラプトンが絶賛するほどのギタリストとしてのテクニックを持ち、ノラ・ジョーンズをはじめ様々なアーティストのライブをサポート。その一方で、プロデューサーとしてフィオナ・アップルやAlabama Shakesの作品を手掛ける。そんな多才ぶりを発揮してきたカリフォルニア出身のシンガーソングライター、ブレイク・ミルズ。前作EP『Look』(2018年)ではアンビエントなインストで新境地を開いたが、新作『Mutable Set』でも独創的なサウンドを生み出している。ギター、シンセ、ピアノ、パーカッションなど、それぞれの音色が、あるものはクリアだったり、曇っていたりと様々な音色で断片的に散りばめられ、それが不思議なテクスチャーを生みすなかで囁くような歌声が低空飛行する。音響への繊細こだわりで構築されたミニマルなサウンドとそこに漂うロンサムな歌心は、Corneliusの『Mellow Waves』(2017年)を思わせたりも。
The Magnetic Fields『Quickies』
ステフィン・メリットが率いる宅録インディポップバンド、The Magnetic Fields。これまで、69曲のラブソングを集めた『69 Love Songs』や、生まれてからの50年間を1年1曲で表現した『50 Song Memoir』などユニークなコンセプトの作品を作り出してきたが、新作『Quickies』も遊び心溢れる内容だ。アルバムを作り始めた時の読んでいた掌編小説(原稿用紙1枚前後の短い小説)にインスパイアされたメリットは、3分未満の短い曲を28曲収録したショートショートアルバムを作り出した。ひとつの楽器を1分ほど演奏して手を止める、ということを繰り返して曲想を練り、そこに短い歌詞を乗せていったという。ギターやピアノなど楽器の演奏やリズムも簡潔。それでいて飽きさせないのは、メリットのメロディメイカーとしての才能とツボを押さえたアレンジのおかげだろう。日々の生活のなかで感じたことをスケッチした歌詞には、メリットらしい鋭い観察眼とユーモアを感じさせて、辞書を片手に読書気分で楽しみたいアルバムだ。
■村尾泰郎
音楽/映画ライター。ロックと映画を中心に『ミュージック・マガジン』『レコード・コレクターズ』『CDジャーナル』『CINRA』などに執筆中。『ラ・ラ・ランド』『グリーン・ブック』『君の名前で僕を呼んで』など映画のパンフレットにも数多く寄稿する。監修/執筆を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)がある。