浦和ナルシス、高田馬場AREA、池袋手刀……コロナ禍で独自のカラー活かした企画行うV系ライブハウス

カオスな世界で楽しめる「池袋 音処・手刀」

 高田馬場AREAがV系の聖地なら、池袋手刀(チョップ)はアングラ界隈の聖地だろうか。池袋駅北口(西口(北))を出て、風俗店や激安居酒屋などの看板が立ち並ぶ繁華街を抜けた路地にある、小さなライブハウスが池袋手刀だ。その立地の危うさに加え、出演アーティストのクセもかなり強い。白塗り系や密室系(<密室ノイローゼ>所属および関係の深いアーティスト)などV系シーンの中でも濃いバンドの他、パンクバンドやアングラ劇団など、世界観の強いアーティストたちが一堂に会するカオスな場所が池袋手刀なのだ。ちなみにドリンクカウンターには「手刀酒場」という看板が掲げられており、ライブハウスとは思えないほど豊富な種類のお酒を味わうことができる。

 お酒にこだわりのある池袋手刀では、配信ライブを行なうアーティストへお酒などを差し入れできるという新しいサービスを実施している。オンラインショップからシャンパン(5500円)、ビール(800円)、ポッキー(500円)のチケットを購入することで、ファンからの差し入れがアーティストに届くというシステムになっているため、配信を盛り上げるアイテムとしても、ファンとアーティストの距離を縮めるアイテムとしても活躍しているようだ。さらにオンラインショップでは、出演アーティストの血英鬼(池袋手刀では「チェキ」を何故かこう表記する)に加え、池袋手刀のスタッフが映った血英鬼、アーティスト手作りの大仏ブローチ、池袋手刀オリジナルの布マスクなど、様々なアイテムが雑然と並べられており、他では中々見ないカオスな空間になっている。危機的状況に立たされているのは確かなはずなのに、その状況をどこか楽しんでいるようにも見えるのは、池袋手刀にしかない魅力だ。

 ライブハウスが配信という新たな常識に適応しつつ存続を続けていくためには、ライブハウスをただの箱として見せるのではなく、“いつも面白そうなことをやっている場所”とリスナーに認識してもらい、アーティストのファンではなく“ライブハウスそのもののファン”を増やす必要があるのかもしれない。そうなれば、今回挙げた取り組みを発端に、ライブハウスは今後、より独自のカラーを強め、他との差別化を図っていくことだろう。

■南 明歩
ヴィジュアル系を聴いて育った平成生まれのライター。埼玉県出身。

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