Official髭男dism、“音楽の楽しさ”で熱狂を生み出すパフォーマンス 躍進の2019年をライブで振り返る

 一言で言うと、「音楽って楽しい!」という気持ちが溢れ出したようなライブをするバンドだ。初見のときにまず驚くのが、藤原の圧倒的な歌の上手さ。声量があるから、野外でも広い会場でも、遠くの観客までしっかり届く(何なら、フードエリアや物販にいた人まで惹きつけたりしているんじゃないだろうか)。声がブレず、どの音域の音もしっかり鳴らすことができるため、「音源の方がよかった」とガッカリさせられることがほぼない。加えて、思いきりビブラートをかけながらの独唱、地声と裏声のスムーズな切り替え、さりげない巻き舌など、テクニックも抜群。藤原ほど自在に歌うことができたら楽しくてしょうがないんじゃないだろうか。シンプルにそう思う。

 ダイナミクスの広さで聴き手の心をぐっと捉え、音源とは異なる楽曲の表情を引き出してくれるようなアレンジの巧みさにも特筆すべきものがある。カッティングの名手・小笹のギターヒーロー感溢れるソロ。スタッカート、テヌートといった音のニュアンスを細かく丁寧につけている楢﨑誠(Ba/Sax)によるグルーブ。最後列で堅実にバンドを支えながらも、たまに絶妙なタイミングでクラッシュシンバルを「パァン!」と入れてきたりする松浦......と、各プレイヤーの魅力も随所で光っていて、観ているこちらは熱くならざるを得ない。個人的な好みで言うと、ハンドクラップやシンガロングをやたら促してくるバンドは少々苦手だが、先に紹介した「Stand By You」然り、ヒゲダンのライブにおけるそれは嫌味に思えない。なぜなら、お約束、形式めいた感じがしないから。その演奏で以って人々を熱狂させたうえで、感情ごと観客を巻き込むことができているから。ハンドクラップやシンガロングが“盛り上がるためのツール”というよりは、“盛り上がった末に感情が発露した結果”という形で用いられているから。

 楽曲のクオリティの高さからか、メンバーの楽器の上手さからか、「ヒゲダンは器用すぎて好きになれない」という声を聞くこともあるが、いやいやいや、それを言うならライブを観てからにしてほしい、と常々感じている。ということで、最後に、全国ツアーのNHKホール公演から7曲をまとめたこの映像を紹介したい。40分強で終わるので全部観てほしいところだが、あえてピックアップするなら、ラストの「異端なスター」。ライブ終盤ならではの充実感と幸福感がこちらにまで伝わってくるようで最高ではないか。

Official髭男dism BEST ARCHIVE -one-man Tour 18/19 NHKホール-

 今回紹介した4本のライブのうち、『SWEET LOVE SHOWER 2019』での演奏は筆者も現地で観ていたが、初出演にもかかわらずフィールドから溢れそうになるほどたくさんの人が詰めかけていたこと、演奏が終わって次のステージへ移動しようと振り返った観客がみんな笑顔だったこと、その2点が印象に残っている。現在は、新型コロナウイルス感性拡大防止の観点からライブがなかなか開催できない状況だ。実際、ヒゲダンが予定していたツアーは延期になったし、中止・延期を発表したフェスも多数ある。だけどその間、この映像を観ながら、歓びを全身で謳歌できる日がもう一度訪れることを信じていたい。あの輝きは、少なくとも私たちにとっては不要ではないから。

■蜂須賀ちなみ
1992年生まれ。横浜市出身。学生時代に「音楽と人」へ寄稿したことをきっかけに、フリーランスのライターとして活動を開始。「リアルサウンド」「ROCKIN’ON JAPAN」「Skream!」「SPICE」などで執筆中。

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