kZm『DISTORTION』レビュー:野田洋次郎、小袋成彬、Tohjiら異才集結 柔軟なプレイヤビリティと優れた選球眼
〈kZmのバースはどうせ超ヤバい てかChaki Zuluトラック超パナいから〉。kZmが4月22日に発売した2ndアルバム『DISTORTION』を聴き終えて、真っ先に思い浮かんだラインだ。同時に「これは“超ヤバい”で収まる騒ぎじゃない」と身震いしたのも覚えている。
冒頭に引用したリリックは、kZmやChaki Zuluと同じヒップホップクルー・YENTOWNに所属するJNKMNが、2015年10月に参加した楽曲「BUSSIN」(SEEDA, Junkman, kZm名義)で披露したもの。同クルーの最年少ラッパーという肩書きからキャリアが始まったkZmだが、煙を吐くように気怠く、まるで深淵から轟くようにヘビーなラップを得意としながら、高らかでエモーショナルな“歌モノ”のフロウも操れる多彩なプレイヤーとして今や成長を遂げている。
さて、2018年3月発売の前作アルバム『DIMENSION』と同様、トータルプロデューサーにChaki Zuluを迎えて制作された『DISTORTION』だが、端的に言えば2020年のヒップホップシーンを代表する一枚になると思う。その理由は後々に記すとして、今作の大きな特徴として、様々な“異才”が集結していたことが挙げられる。
その象徴といえるのが、野田洋次郎(RADWIMPS)や小袋成彬など、錚々たる客演アーティストの顔ぶれだろう。kZm自身も、中学時代からRADWIMPSを愛聴しており、野田との共作は思いもよらなかったという。また、メインストリームのトラップをはじめ、ヒップホップとは少し距離のあるハウスやガバ、ロックといった幅広い音楽ジャンルのクロスオーバーにも驚かされた。そんな多種多様な才能とサウンドが、時にカオティックな装いで混在しつつも、作品として“統一感”を備えていたのは、各楽曲が確かな強度を備えていたためだろうか。本稿では、同作より客演陣が参加したいくつかの楽曲を紹介したい。
「Give Me Your Something feat.Daichi Yamamoto」「Fuck U Tokio I Love U! feat. 5lack」の2曲には、Chaki Zuluのほか、DISK NAGATAKI(tokyovitamin)がプロデュースに参加。前者の楽曲は、Daichi Yamamotoを迎えたハウスナンバーなのだが、こういったクラブ映えするトラック上での彼には、若手ラッパーとして本当に末恐ろしさを突きつけられる。ダンサブルなグルーヴの掴み方が上手すぎるのだ。また後者は、kZmの敬愛する5lackを迎えた、都会的な哀愁漂うネオヒップホップ的な楽曲。〈昼の3時に目覚める 「ねぇ、今日も終わりそうだね?」「えぇ」〉という5lackのスムースな歌い出しには、東京に漂う漠然とした虚無感が表れていた気がする。
そこからチルトラップをアンビエントに深化させた「追憶」で、いよいよ野田の歌声が響き渡る。同曲で描かれたのは、kZmのラッパーとしてリリックを吐き出す苦しみや、以前の恋人に向けた微かな想い。野田の純真な歌声で紡がれるフックは、楽曲の主人公の心情を汲み取ったかのように、どこか遠くの存在に想いを馳せるセンチメンタルなものだった。