宇多田ヒカル、インスタライブ企画が象徴した活動変化 中村倫也、ワンオクTaka……人とのつながりを核にした姿勢
そして今回特に印象的だったのが、今年始めにレコーディングでイギリスに来ていたTakaの制作現場に彼女が訪れた際のエピソードである。
宇多田:私、曲を作り始めるときは一番ひとりじゃなきゃできない部分だから、ああいう風に信頼してるメンバーと一緒にとか、初めて会うプロデューサーさんみたいな人? とその場でみんなで楽しく作ってくのを見て、素敵だなと思って。
Taka:衝撃だった?
宇多田:衝撃的だった……うん。
Taka:やっぱそうだよね。俺も最初慣れなくて、アメリカ行き始めたとき。
近年のONE OK ROCKは、様々な作家が曲作りに参加する、いわゆる“コライト”と呼ばれる手法を採用している。海外の音楽シーンでは当たり前となっている光景だが、日本ではまだまだ浸透していないやり方だ。
曲作りもほとんど自分ひとりで完結してしまえる才能を持つ彼女にとって、大勢が集まって制作する風景が異様に映ったのは想像に難くない。そして、2000年代以降の“自作自演至上主義”とも言える時代を築き上げたまさにその人が、そうした現代型の制作現場を目にして衝撃を受けたというのが興味深い。
もし今後、彼女のようなアーティストが“コライト”にスタイルを変化させたとしたら、彼女はまたもう一度時代を動かすことになるかもしれない。シンガーソングライターの時代から、コライトの時代へ。良い作品を作るために人びとが集まり意見を出し合う“楽曲至上主義”の時代へ。
自宅隔離中の中で行われた生配信に宇多田ヒカルの変化、そして日本の音楽業界の変化の予兆まで垣間見た次第である。
■荻原 梓
J-POPメインの音楽系フリーライター。クイックジャパン・リアルサウンド・ライブドアニュース・オトトイ・ケティックなどで記事を執筆。
Twitter(@az_ogi)