「コロナ以降」のカルチャー 音楽の将来のためにできること
野村達矢氏が語る、コロナ禍における音楽業界の現状と取り組み 変化への対応から模索する表現の可能性
「何をすべきかに対していつでも敏感になっていたい」
ーー音楽業界全体でもオンラインでの表現が活発化していて、過去の映像作品を公開したり生配信ライブを各自が積極的に行っています。なにかビジネスの可能性を見出しているものはありますか?
野村:オンライン上で公開するものについては、お金をもらってはいけないのではないか、という思いがこれまではありました。しかし業界内でも少しずつ課金を取り入れていく風潮が強まっています。現在、課金制コンテンツの配信システムを洗い出していて、各プラットフォームの傾向や金額を比較して検討できるよう情報を集めています。
ーー無料で見ることができるのはありがたい反面、この状況下で恐れ多い気持ちになるような上質なコンテンツもたくさんあるので、対価を支払いたいと感じる人たちの受け皿があるといいのかもしれません。
野村:そうですね。もしお金をいただくのであれば、その分責任ある作品を届けていかなければならないので、仕組みを見直していかなければならないと感じています。
ーーコロナ禍での音楽活動に関して、その他にも今後に活かせるような取り組みはありましたか?
野村:そうですね……一概に何が良いと決めることは難しいです。たとえば、自粛規制が緩やかになれば異なる手段で表現することができますし。日々状況が変わるなかで表現手段の価値は変わってくるんです。行政からの要請を受けてどれぐらいスピーディにその時々にあった手段を使って表現をするのかが重要なのではないでしょうか。当初盛んに行われていた無観客ライブも今となっては難しいものとなってしまっていますから。
ーー表現を行うための手段も世論に委ねられているのが現状ということですね。
野村:はい。ただ、状況や環境の変化に合わせて臨機応変に対応するという意味では、プラットフォームの情報をどれだけたくさん持っているかが鍵を握るかもしれません。
ーーこれまでのようにライブを行うことは非常に難しい状態にあるかと思います。ライブを主軸に置いているヒップランドとして今考えていることはありますか?
野村:本当に答えがないですよね。ホールの換気基準は厳しくされているので、実際は密閉空間ではないと言い切れるんです。少し前まではライブを行うにあたって、観客は声を出さない、マスク着用、入場前に体温を測る、そのような管理体制をしっかり整えれば再開することができるのではと望みをつないでいたのですが、自粛解禁になった韓国のクラブで感染者が出てしまったニュースを見て、とてもショックを受けました。現時点でライブの再開に向けた対処法は暗礁に乗り上げていますが、また状況が変わったら別のアイデアでチャンスを見つけていきたいです。
ーー映画館では座席数を少なくして再開するアイデアも出ていますが、ライブ会場で考えるとやはり難しいのでしょうか。
野村:音楽の場合は1公演にかかるコストが高いので厳しいと思います。損失を広げていくことになりかねない。席を少なくするのであれば、その分チケット代を上げなければならないですよね。
ーーたとえば、ダイナミックプライシング(価格を需要と供給の状況に合わせて変動させる価格戦略)などを導入しても?
野村:これはコロナとは別の問題になってくるのですが、業界全体でチケットの転売問題に声をあげ続け「定価売買」という前提を設けることで、ようやく「チケット転売禁止法」ができたという経緯があります。なので、単価が一律でなくなることに対しては、現状ではやや懸念があるのが正直なところです。とはいえ、いずれは導入せざるをえない時期がくるとも感じているので、「チケットの定価売買」という前提の仕組みがしっかり根付いた上で取り入れるのであれば可能性はなくはないと思います。
ーー野村さんは音楽シーンがデジタル時代に突入する上でも、いち早く未来に向けた仕組みづくりに邁進されてきたお一人かと思います。新たな仕組みを考えている上で心がけていることはありますか?
野村:心がけているというよりは、何をすべきかに対していつでも敏感になっていたいですね。そのためには反射神経が必要だと思うので、会話やメディアを通じて入ってくるヒントを見逃さないようにするというか。そのトレンドをもとに仮説を立て、流行りそうなものを考え、実行に移していく。そういうことは常に行っています。
ーーコロナ禍を経て、表現者が生み出す創作物自体にも変化は起こると思いますか。
野村:先ほども少しお話したように、表現の手段は変わっていくでしょう。外出自粛によってオンラインで何ができるのかが追求され始めている。それによってプラットフォームがさらに進化していくと思うんです。エンターテインメント業界に携わる人間は、その進化に対してどの表現が適切なのか、手段に合った表現ができるのかが問われてくるのだと思います。今後は5Gの実力も発揮されていくだろうし、5Gで何ができるか全貌が見え始めてきたら、さらに表現が変わっていく可能性もあるかもしれませんね。
ーー今後も音楽文化を発展させていくために大切になるのは、どのようなことだとお考えでしょうか。
野村:「文化は大切なもの」だということを社会全体に向けてアピールしなければならないと感じています。人間が人間らしくあるのは、“喜怒哀楽”という感情があるから。生きていくためにそういうものが大事であるということを今後はもっと積極的に発信していきたいと思っています。