北野創の新譜キュレーション

麻倉もも、DIALOGUE+、諸星すみれ……春らしい華やかなアニメ/声優ソングをピックアップ

 アニメ/声優ソングの注目作品を紹介する本連載。今回は2020年春クールのOP/EDテーマから選ぼうかなと思っていたのですが、本原稿執筆時点ではまだ放送前の作品も多く、楽曲情報が出揃っていないので、春らしく華やかに、女性声優による作品を中心にセレクトしてみました。

麻倉もも『Agapanthus』

 最初に紹介するのは、麻倉ももの2ndアルバム『Agapanthus』。ミュージックレイン所属の女性声優3人によるユニット・TrySailのメンバーとして活躍しつつ、それと並行して2016年よりソロアーティストとしての活動も行っている彼女。同じくTrySailの雨宮天はクールでロッキッシュな曲調を得意とし、夏川椎菜は作詞などで自ら制作に積極的にコミットするなど、それぞれの個性を活かしたソロ活動を展開していますが、麻倉ももは少女マンガ好きという自身の趣味を反映し、主に女の子の恋愛をテーマにした楽曲を歌ってきました。今回のアルバムは、彼女がデビューからリリースを重ねる中で徐々に形にしてきた、その「女の子が共感できるような恋愛ソングを歌いたい」というビジョンを、より明確に表現した作品と言えそうです。

 収録曲には、告白モード全開のポップソング「365×LOVE」、思春期に戸惑う女子に軽やかに歌いかけるような「ユメシンデレラ」といったシングル曲も含むなか、ここで注目したいのはやはり本作初出の新曲群。エレクトロハウス調のダンスビートが彼女の作品では新鮮な「トキメキ・シンパシー」、ウィスパーボイスが耳に幸せすぎるお洒落なグルーヴィチューン「Twinkle Love」、珍しくハードめなロック曲「秘密のアフレイド」など、今まで以上に様々なサウンドに取り組みつつ、女の子視点に立った恋愛ソングという軸があるがゆえに、アルバムとしての統一感はしっかりとキープしているのが素晴らしいです。

 なかでも、麻倉自身がファンということで、シンガーソングライターの藤田麻衣子に楽曲提供を依頼して実現したという新曲「今すぐに」は、恋する乙女心のかわいらしさを表現することが多い麻倉の作品には珍しく、遠距離恋愛をテーマにした切ないバラード調のナンバー。例え離れ離れで不安になるときがあったとしても、相手との愛を信じる気持ちを切々と歌い上げる姿に、彼女のシンガー(と声の表現者である声優)としての成長をしっかりと感じ取ることができます。

 もうひとつ特記しておきたいのが、同じく麻倉のリクエストで作家の渡辺翔が書き下ろした本作のリードトラック「Agapanthus」。渡辺翔と言えば、TrySailの最新シングル「ごまかし」と「うつろい」でも上質極まりない楽曲を提供したばかりですが、本作での華やかさと昂揚感を兼ね備えた素晴らしいメロディラインもまさに彼の真骨頂と言えるもので、倉内達矢のアレンジによるメルヘンチックで美麗なサウンドも最高のひと言。なにより、麻倉のBメロでのささやき声のようなボーカルアプローチ、そしてサビラストで突然耳元で語りかけるような口調で放たれる「そっと」というつぶやきには、ドキドキと共にASMR的な快感を覚える人も多いのではないでしょうか。かわいらしかったり、いじらしかったりと、いろいろな恋模様が表現された本作を聴いた後には、あなたも彼女に恋をしているかもしれません。

麻倉もも 『Agapanthus』Music Video(short ver.)
DIALOGUE+『DREAMY-LOGUE』

 続いては、2019年に若手女性声優8人で結成された声優アーティストユニット、DIALOGUE+のミニアルバム『DREAMY-LOGUE』をピックアップ。彼女たちは昨年10月にTVアニメ『超人高校生たちは異世界でも余裕で生き抜くようです!』のOPテーマ「はじめてのかくめい!」でデビューしたばかりの新人なのですが、その曲をUNISON SQUARE GARDENの田淵智也(作詞・作曲)とMONACAの田中秀和(編曲)が手がけたことで話題になりました(参照記事)。それに続くリリースとなる本作でも、田淵智也が音楽プロデューサーとして全面的にバックアップ。なんと6曲の収録曲のすべてを作曲しているほか、3曲で作詞も担当。さらに残りの3曲の作詞には、大胡田なつき(パスピエ)、津野米咲(赤い公園)、三森すずこを起用し、編曲には堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)や佐藤純一(fhána)といった面々が関わる、豪華作家陣がサポートした作品になっています。

 もちろんクレジット面の華やかさに比例して、中身の充実ぶりもすごいことに。ホーンセクションを大々的にフィーチャーした超ハイテンションなスカポップ「大冒険をよろしく」、大胡田なつきらしい不思議な言語感覚がクセになるキュートなガールズトークチューン「トーク!トーク!トーク!」、いわゆるモータウンビートの軽快な夜更かしナンバー「パジャマdeパーティー」と、女子8人組だからこそのワイワイした魅力が味わえる一方で、田淵が詞曲を手がけた「好きだよ、好き。」と「ぼくらは素敵だ」では、夢を追って今声優のステージに立った彼女たちの頑張りをストレートに表現。これからより高みに進んでいくために必要な絆や自信といった気持ちを、楽曲を通じて高め合っていくような、そのピュアさが涙腺を刺激するナンバーになっています。特に「好きだよ、好き。」のMVはガチで泣けるのでぜひご覧ください。

【MV full size】「大冒険をよろしく」【DIALOGUE+】 Mini Album「DREAMY-LOGUE」
【MV full size】「好きだよ、好き。」【DIALOGUE+】 Mini Album「DREAMY-LOGUE」
諸星すみれ『つむじかぜ』

 そしてDIALOGUE+と同じく、昨年10月にアーティストデビューした声優・諸星すみれも、自身初のシングル作品となる『つむじかぜ』をリリースします。まだ20歳ながらも、子役時代から演技の才能を開花させ、ディズニー映画の『アナと雪の女王』『シュガー・ラッシュ』などにもメインの役どころで吹き替えに参加するなど、声優としてのキャリアは充分すぎるほどに持っている彼女。表題曲「つむじかぜ」は、前作のミニアルバム収録の「真っ白」に続き、TVアニメ『本好きの下剋上 司書になるためには手段を選んでいられません』のOPテーマに起用されており、それこそディズニー映画の歌姫たちが歌うような、優雅で壮大、そして大空を舞い飛ぶような晴れやかさに満ちたオーケストラルポップに仕上がっています。「真っ白」では5拍子と6拍子が混ざった異色の楽曲構成であるにも関わらず、それを感じさせない流麗な歌声を聴かせていましたが、同曲に続いて白戸佑輔が作編曲した今回の「つむじかぜ」は基本3拍子のワルツ調に。TVバージョンでは聴けない後半の展開にも驚きの仕掛けを含んでいるので、ぜひフルバージョンを聴いてほしいところです。

 また、本作はカップリング曲もかなり攻めた内容になっています。まず「SCREEN GIRL」では、水曜日のカンパネラでの活動で知られるケンモチヒデフミが作編曲を担当。これがいわゆるメジャー・レイザー&DJスネーク「Lean On」やドレイク「One Dance」以降の世界的トレンドとなっている、スムースなレゲトン~ダンスホールレゲエ~アフロポップ的なアプローチのナンバーになっており、諸星本来の可憐な声質に大人びたフレイバーが加わった歌声は、新鮮かつ現行のアーバンポップではあまり聴くことのない妙味になっています。

 さらにDECO*27が作詞、ROUND TABLEの北川勝利が作編曲した「ワンダーワンダー」は、途中でセリフも挿入されるミュージカル~レビュー調のナンバー。そして“Present Track”として収められるのが、諸星が主人公の星宮いちご役を務めたアニメ『アイカツ!』より、2014年公開の『劇場版アイカツ!』の挿入歌「輝きのエチュード」のカバー。『アイカツ!』ではキャラクターを演じる声優と、そのキャラの歌唱を担当する者が別々に存在しているので、諸星が「輝きのエチュード」を音源として吹き込むのはこれが初のこと(2018年に開催されたライブイベント『アイカツ!シリーズ 5thフェスティバル!!』では歌唱済み)。星宮いちごというキャラクターを象徴した作中屈指の名バラードを、今回は御大・鷺巣詩郎によるオーケストラを中心とした壮麗なアレンジをバックに、何重にも重ねた繊細なハーモニーを含め、表現力豊かに歌っています。声優としてのみならず、歌手としても一流であることを示した、底知れない才能を感じさせる作品です。

諸星すみれ 「つむじかぜ」ミュージックビデオ(Short Ver.)

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