クラムボン ミト×Q-MHz 黒須克彦がベーシスト視点で語る、アニソン制作の現在 「いい意味で“カオス”になっている」

ミト×黒須克彦対談

「アニメに曲なんか書かねえぞ」みたいなアーティストは最早いない

黒須:ほんと、色んなタイプの作家さんがここ10年で登場しましたよね。それこそロックバンド出身の人もいれば、ジャズ畑の人もいる。ファンク、プログレ、ダンスミュージックなど、様々なジャンルの「本職」の方々がアニソン界隈にも増えてきて、いい意味で「カオス」になっている2020年というがします。

 そして、そういう人たちが書いた楽曲を、例えば『リスアニ!LIVE』のようなイベントでは、ハウスバンドとして演奏する機会があって。そこで色んなスタイルを演奏することが出来るのは非常にありがたいんですよね。で、毎年『リスアニ!LIVE』に参加させてもらって思うことは、ここ数年でジャンルの細分化がさらに進んでいるということです。例えば、ASA- CHANG&巡礼の「花」が、リアレンジされて『惡の華』のエンディングテーマに起用されるとか、どういう経緯で起きるのですかね?(笑)

ミト:新たに放送されるアニメのパイロット版が出来た時、「こんな感じの曲を」みたいに仮で既存曲を入れておくことがあるんですよ。僕も以前、劇伴の仕事で呼ばれた時に監督から「実は制作中に、クラムボンの曲をずっとイメージしていたんです」と言われたことがあって。そんなふうに監督の頭の中に楽曲のイメージがあり、そこから引っ張ってくるパターンは結構あるんじゃないかと。ひょっとしたらASA- CHANG&巡礼も、そんな感じで起用されることになったのかもしれないですよね。これはあくまでも僕の想像ですが。

 やっぱり、ここ最近のアニメ監督の方たちって、サブカル方面の造詣が非常に深い人が多くなってきていますよね。要するに、私たちと同じ世代の監督が増えてきている。『推しが武道館いってくれたら死ぬ』のエンディングテーマが、えりぴよ(CV:ファイルーズあい)による松浦亜弥「♡桃色片想い♡」のカバーだったりするのとは全く違う文脈の話ですが。

黒須:なるほど。昔だったら監督から「こんな感じの曲を」という要望があった際、職業作家さんに「それふうの楽曲」を発注する、という流れだったのが、ここ10年は「それよりも本物に頼んじゃおう」という流れになってきているんでしょうね。もう、誰がアニソンを手掛けてもおかしくない状況になってきているように思います。

ミト:以前だったらアニソン界隈に介入することに違和感を持つ人もいたと思うのですが、そういった垣根はほとんど消えたといっていいのかもしれない。「アニメに曲なんか書かねえぞ」みたいなアーティストは、最早いないと思う。

黒須:その突破口を開いた一人は、紛れもなくミトさんですよ。

ミト:いやいや(笑)。とにかく私はアニメが好き過ぎたので、むしろ自分がそこに安易に介入してはいけないってずっと思っていたんです。やるなら本気でやらなきゃいけないし、何かの真似事になるわけにはいかない。そのためには研究し尽くさないと危険だと思っていましたね。実をいうと、クラムボン結成してすぐくらいからオファーは頂いてたんですよね。しかも、そこそこ大きなコンテンツだったので、その時には踏み込めなかったのですが。

黒須:そんなことがあったんですね。

ミト:なので、いまだに自分が「突破口を開いた」という自覚はないんです(笑)。それこそASIAN KUNG-FU GENERATIONや、YUIちゃんの『鋼の錬金術師』のような、愛のあるコラボが色々あった中で、たまたま僕らもやらせてもらえるようになっていったというか。ただ、豊崎愛生ちゃんの一連の楽曲やアニメ『花咲くいろは』のエンディングテーマ(「はなさくいろは」)など、「やるならどこにもないような楽曲を作りたい」と思って取り組んでいたら、どこにもなさ過ぎな楽曲ができたかな、とは思っています(笑)。

 話は戻るのですが、ライブで人のベースラインを色々コピーできるのは、結構ありがたいですよね。自分の体に「違う文脈」が流れ込むような感覚というか。私、自分ではあまりスラップとかやらないのに「スラップベースを弾く人」と思われていたりするのは、きっと自分以外のベーシストが考えたフレーズを演奏する機会が多いからだと思います。

黒須:確かにそれはありますね(笑)。ただ、今は新型コロナウイルス肺炎の影響で、なかなかライブもできない状況になっていて。4月以降の状況次第で、業界的にも自分の活動的にも一つの転換期がくるのではないかと思っていて。

ミト:本当にそう思います。今、音楽業界のシステムから何から全て抜本的に見直さなければならない局面に来ている。比べるものではないですが、所謂3.11を超えた事態というか……。今、みんながどうやって過ごしているのかすごく気になりますね。作家としては、とにかく作品を作り続けるしかないと思うのだけど、バンド仲間やテックさん、ステージ周りのスタッフ……みんなSNSの書き込みを読む限りでは、本当に深刻な様子が伝わってきて。それをこれからどうするべきなのか、各々で考えるべき日々に来ています。

 例えば「無観客ライブ」で収益を上げられたとしても、実際にお金が入ってくるのはずっと後ですからね。そもそも、全てのミュージシャンが同じことを出来る資本や体力を持っているわけじゃない。もちろん、今はそれぞれができることを試行錯誤しながらやっていることに意義があるのかと思うんですけど。……すみません、脱線してしまいましたね(笑)。とにかく、一刻も早く収束してくれることを願います。黒須くん、今日はありがとうございました。

黒須:こちらこそありがとうございました。

クラムボン「夜見人知らず」

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