神前 暁と振り返る、作曲活動20年における“4つのターム” 「感動のハードルはどんどん上がってる」

「God knows...」や「もってけ!セーラーふく」が生まれた“飛躍期”

全曲サビMIX♪「神前 暁 20th Anniversary Selected Works “DAWN”」試聴メドレー

ーーナムコ時代に作った曲で最初に手応えがあったのは?

神前:『ことばのパズル もじぴったん』ですね。一人でタイトルの立ち上げからやらせてもらった最初の作品だった。自分の仕事として世に出た最初の代表作かなっていう気がします。

ーー改めて振り返って、「もじぴったん」は自分の初期のどういうところを象徴していると思いますか?

神前:渋谷系が好きみたいなところは確実に出てると思う。この曲はPSP(プレイステーション・ポータブル)が出たときに中田ヤスタカさん、あとはPlus-Tech Squeeze Boxのハヤシベトモノリさんとか、Sonic Coaster Popにもリミックスをお願いしるんですよ。そういうフューチャーポップ系、00年代初頭のポスト渋谷系と呼ばれる走りだったかもしれない。

ーー神前さんの仕事としては、いわゆる歌モノの曲と劇伴とを、最初から両方やられてますよね。

神前:どちらかというと最初は劇伴がメインですね。ナムコはゲーム会社だから、そこでは基本的にはBGMを作っていたし、アニメも最初は『涼宮ハルヒの憂鬱』に劇伴で参加して、その一環として挿入歌を担当させていただいたので。でも、劇伴と歌モノの二つが両輪になっている感じはあります。

ーー神前さんのキャリアを四つにわけるならば、ナムコ時代の00年代前半までは「雌伏期」、00年代後半は「飛躍期」と言えると思います。辞めた当初からアニメの仕事をやろうという意識は強くありました?

神前:ありましたね。当時、京都アニメーションの山本寛君という監督がいて。彼が高校、大学と同級生で、その縁もあってテレビアニメの音楽のお誘いがあった。さすがに会社員として受けられないし、いい機会なので独立した形です。本当にそれだけだったんですよ。

ーー『涼宮ハルヒの憂鬱』はアニメソング作家としての最初のスタート地点なわけですが、そこにある自分の初期衝動的なものってどういうものだと思います?

神前:これはもう、いっぱいいっぱいですよ。特に曲数が多いから劇伴の方がしんどかった。挿入歌もいわゆるJ-POP的なポップロックを作ってくださいっていうオーダーだった。僕としては自分らしさが出ているというよりも、職人的に作ったという感じですね。

ーー「God knows...」がその後愛され続ける息の長い曲になるという予感は、作った当初はなかった?

神前:全くないです。4人組のギターボーカルの曲なんて書いたことなかったし。でも、仕事でやるって、そういうことなんだろうなって。まさしく職業作家としてのスタートだったっていうのは象徴的なのかもしれないですね。

ーー 2007年には『らき☆すた』の「もってけ!セーラーふく」があり、これが一つのブレイクポイントになりました。

神前:当時はニコニコ動画が始まった頃で、「踊ってみた」のブームに合わせて大ブレイクしまし たね。オープニングでキャラクターが歌って踊って、という。あの爆発力は凄かったですね。

ーーあの曲はどういう経緯で作られていったんですか?

神前:最初のデモは、The Stone RosesとかBlurみたいないわゆるUKロックの感じだったんです。でも「それじゃあフックが弱い」と言われ、あれこれ変えていくうちに、半ギレで「そんなんだったらカットアップしまくってやるわ!」みたいな感じでやったら、それが面白いとなった。ディレクターが現場でシンセのパートを歌メロにしようと言い出したり、あとは畑亜貴さんの〈曖昧3センチ〉っていう歌詞の力もあるし、アイデアの物量と化学変化の量が半端じゃなかった曲だなって思います。だから、作ってる時に誰も完成形が想像できてないんですよ。ディレクションしてたアニメサイドもそうで。とにかく聴いたことない曲を作ってくれっていうことだけは言ってたけど、そんなものはイメージできないわけで。「まだ違う。まだ違う」って言いながら、どんどん変化していった曲ですね。

ーー『らき☆すた』からは「幸せ願う彼方から」も入っています。これはメロディが印象的なバラードという意味でのスタート地点的なものを感じました。

神前:この曲のメロディは劇伴のアレンジなんですけど、やっぱりこの曲には思い入れがありますね。『らき☆すた』は劇判80曲、歌モノ20曲くらいと大量に作ったんですけど、そういう大量生産の中にも、こういう気持ちのぐっとくるものがあるっていうのは、自分でもちゃんとやってたんだなっていう感じがしますね。クラムボンにもカバーしてもらったし。

ーー次の大きなターニングポイントとしては『化物語』があります。ここにはアニメと音楽の結びつき方としていろんな新しい試みがあったと思うんですが、これはどういう風に始まったんですか?

神前:音楽全体を僕がやるという話をいたただいて。その中で「ヒロインが5人いて、大きく5部構成の話なので、メインヒロインごとにオープニングを変えたい」ということを言われて、「えっ!?」って(笑)。当時、なかったんですよ。作画的な労力も大変だし。でも本当にやっちゃった。このスケジュールでよくやってたなと思います。

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