ロディ・リッチは、リル・ナズ・Xに続くスターに? さらに複雑化するTikTokシーンのヒット傾向

必要なのは、「クリエイティブのための余白」を作ること

 さて、忘れてはいけないのは、ここまで書いてきた動きは、TikTokのユーザーが楽曲を聴いて感じた内容を自発的に表現した結果であるということだ。ユーザは何かを創り、それが大きな反響を得る、あるいはその一部になるという、クリエイティブな活動に魅力を感じている。だからこそ、筆者としては、TikTok等におけるバイラルヒットにおいては「クリエイティブのための余白を作る」ことが最も重要な要素なのではないかと考えている。仮に企業側で完全に上記の要素を押さえ、振り付けも用意して楽曲をリリースしたとしても、おそらく予想通りのヒットにはならないだろう。それではユーザ側の創作意欲を刺激することが出来ないからだ。

 TikTokは良くも悪くも音楽の聴き方自体を変えてしまったかもしれない。Instagramユーザが日々の生活風景に対して「いかに魅力的に撮れるか」を考えながら過ごしているように、TikTokユーザは世の中の様々な音楽を「いかに楽しい映像が作れるか」を基準に聴いているだろう。日々、様々な楽曲がとてつもない速さで消費されているのは事実だ。しかし、それでも長い期間に渡って残り続ける楽曲というのは、結局のところ多くの人に愛される楽曲である。「The Box」についても、もしかしたらTikTokを意識した楽曲かもしれないが、そこで生まれた貪欲な楽曲は、それ自体が中毒性を持つこととなり、非TikTokユーザを含む多くのリスナーを魅了し続けている。ヒットの構造自体は変わったかもしれないが、そこにある音楽が魅力的であるという事実は、何一つ変わってはいないのだ。

■ノイ村
92年生まれ。普段は一般企業に務めつつ、主に海外のポップ/ダンスミュージックについてnoteやSNSで発信中。
シーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始
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Twitter : @neu_mura

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