ロディ・リッチは、リル・ナズ・Xに続くスターに? さらに複雑化するTikTokシーンのヒット傾向

表情から動きまで、数十秒の尺を貪欲に活用するTikTok上でのダンス

 続いて、「ダンス動画のお題(○○Challenge)」パターンについて解説していく。おそらく、「TikTok発のヒット」として語られる多くはこの「○○Challenge」の原曲として使われている場合であろう。「Old Town Road」や「The Box」も、この流れで人気を獲得している。

 「○○Challenge」とは楽曲のある特定の部分を使い、それに合わせて共通の振り付けを踊るというものだ(踊りではなく何かしらのアクションを起こすパターンもあるが割愛する)。多くの場合、ユーザが自発的に投稿した一つ振り付け動画が発端となり、それを見た別のユーザが真似して踊った動画を投稿し、それが広がっていくことで定着していく。

 この「振り付けをつける」、そして「動画を見て真似したくなる」というところが最大のポイントである。つまるところ、「○○Challenge」に求められるのは、振り付けをつけやすく、踊るのが楽しい楽曲だ。後者はこれまでのヒット曲でも求められてきた要素だが、今は前者の「見られる/見せる」視点もそこに加えられているのである。しかもそれをアーティストではなくユーザ側が勝手に考えるため、最終的なアウトプットはリスナーに委ねられている。

 では、最近ではどのような楽曲がTikTok上で使われやすいのだろうか?大きなポイントとしては、下記の要素が考えられる。

・リズム : ダンスの自由度が高く、踊りやすいテンポであること
・緩急 : 速いパートと遅いパートがあり、ダンスの緩急がつけやすいこと
・歌詞 : 様々な感情の変化が描画されていること
・サウンド : 特徴的な効果音や印象的なセリフなど、振り付けに取り入れやすい要素を含んでいること

 これらの要素の少しでも多くが十数秒の間に詰まっている事が求められる。少し前までは、もう少しシンプルだったのだが、TikTok自体が成熟していくにつれて、より多くの刺激が求められるようになった。

 例えば「The Box」の場合、BPM=117のトラップビートで倍速でも半分の速度でも踊れるテンポであり、性急かつ一定のリズムのフロウから歌い上げるメロディの流れで緩急をつけている。これによって激しいシュートダンスからゆったりした腰の動きまで織り交ぜたダンスが可能である。象徴的な「Ehh Err」の効果音や歌詞を元に車を運転する描写等も振り付けに取り入れられており、上記の要素の多くをしっかりと押さえていると言えるだろう。短い時間の中でいかに情報を詰め込み、その上で踊りやすさを保つ。この貪欲なバランス感覚が、今のTikTokでのヒット曲に求められているのである。

 しかし、TikTokでの流行というのは1カ月も持てば良い方で、多くの場合はすぐに次のChallengeに移行してしまう。そのため、この間に楽曲自体を次のフェーズ=TikTokの枠を超えたヒットに繋ぐ必要がある。最近はこのタイミングでMVが作られるパターンが多く、TikTokの次の段階としてYouTubeが活用されている。つまりこのタイミングで楽曲がユーザ側からアーティスト側にまた戻ってくるのである。そこから先のプロモーションを上手くコントロール出来るかが、一つの分岐点となっている。

 では、この原稿を書いている段階で最新のヒット曲とは何だろうか? 米国の若手ラッパー、ミーガン・ジー・スタリオンが先日リリースしたアルバム『Suga』の収録曲、「Savage」が上げられるだろう。フックの〈I'm savege. Classy, bougie, ratchet, sassy, moody, nasty, acting stupid.〉というラインに合わせて、各ワードを表現した動きと表情を取り入れたダンスを踊るという、"Savage Challenge"が流行中だ。Keara Wilsonという19歳のTikTokユーザが発案し、今では本人公認でさらにヘイリー・ビーバー&ジャスティン・ビーバー夫妻も参加するという非常に大きな動きになっている。

Megan Thee Stallion - Savage [Official Audio]

 こちらもBPM=170と半分の速度でも踊れるテンポや、高速と低速を行き来するラップのフロウ、振り付けにも取り入れられている印象的なハンドクラップ音、何より歌詞に合わせた振り付けと、前述の要素を押さえている。「The Box」と比較すると歌詞の比重が高く、また違った振付の面白さが存在している。これもまた実にTikTokでヒットしやすい要素に満ちた楽曲といえるだろう。また大きな動きになっていくかもしれない。

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