『光』インタビュー

輪入道、『フリースタイルダンジョン』モンスターの重圧と戦いながら描いた“光” 「僕なりには全部がラブソング」

「30年生きてきてそろそろ折り返し地点、ここから先は帰り道なのかな」


ーー今回はレジェンドと呼べるdj honda、DJ OASISともコラボをしています。まずdj hondaが手掛けた「母ちゃん(Track by dj honda)」はどのように作ったんですか? 

輪入道:hondaさんは自分からお願いして時間を作っていただいて、札幌に行って作ってきました。hondaさんからビートをいくつか聞かせて頂いた中から自分が選んで、その場でリリックを書いて、1日で作った曲です。

ーーそこでなぜテーマが「母ちゃん」に?

輪入道:おそらくhondaさんの存在感に耐えられなかったんだと思います。dj hondaが同じ部屋の至近距離にいるわけですよ。しかも、リリックを書いてる間、待たせてるわけじゃないですか。勝手にプレッシャーを感じてもう死にそうになってて、助けてくれー! みたいな(笑)。そしたら出てきたのが母ちゃんのことだったっていう。

ーー母ちゃん助けてくれと(笑)。

輪入道:でも、札幌まで自分の体を持って行って作ったということで、できあがった日の夜はめちゃくちゃ嬉しかったです。それに、やっぱりこういうふうに制作するのが大事なんだろうなと思いました。データのやりとりでも良い曲はできるけど、本当は今回のように膝と膝をつき合わせて体温を感じながら作る方がいいんだろうなって。

ーー言わば、この曲は、母ちゃんへのラブソングですね。

輪入道:そうですね。先日、これを『MUSIC BOMB』(AbemaTV)という番組で歌ったんですけど、そのときに「お亡くなりになられたんですか?」って言われて。健在なんで、逆に「母ちゃんゴメン」って……(笑)。母ちゃんとは仲良くやってるんでご心配なくとこの場を借りてみなさんに伝えておきます。


ーーそしてDJ OASISとの「Dream(Track by DJ OASIS)」は、憧れの人へのラブソングと言えますね。

輪入道:自分が23歳くらいのときに雑誌『411』のインタビューを受けたんですけど、そのときから、いつか一緒に制作したいプロデューサーを聞かれてOASISさんと答えていたんです。ラップを始めた高校生のときからの夢でもありました。

ーー“Dream”というテーマは最初から決めてたんですか?

輪入道:最初は全然違うことを書いていて。「鉄砲玉」というタイトルで、もっとキングギドラに寄せたことを書いてたんです。

ーーキングギドラが歌いそうなこと、みたいな?

輪入道:そうです。でも、それじゃ自分らしくないし、違うなとなって、途中で(歌詞を)全替えしました。OASISさんにはレコーディングにも立ち会ってもらって。最初はあえてあまりライミングしてなかったんですけど、OASISさんが「ギドラに影響受けてるって言ってくれてるくらいだから、もうちょっとライムした方がいいかもしれない」ってアドバイスしてくれて。どこにライムをもっと落とした方がいいのかというディレクションまでしてくれて、その通りに直したら実際すごく良くなりました。

ーーそれ自体が夢の時間ですね。

輪入道:まさに。DJ OASISがブースに入ってる俺にディレクションまでしてくれてる、その状況が夢ですよね。しかも、レコーディングの終わり際に、「リリックに出てくる〈斉藤〉が最初に(キングギドラの作品で)貸してくれたのは『最終兵器』?」って聞かれて。「そうです」って答えたら、じゃあ、「『リアルにやる』の声ネタ入れとくよ」って言ってくれて実際に入ってるんです。

ーーしかも、ちゃんとZeebraとK DUB SHINE両方のリリックを繋ぎ合わせて入れてくれた。

輪入道:そうなんです。あのときの興奮はやばかったですね。

ーー本作で唯一の客演曲である「日陰者 feat. 鬼火(Track by DIGITAL NINJA 774)」は鬼火もNINJA 774も初のコラボになりますね。

輪入道:前作に入ってる「TRAVEL」の3バース目は、鬼火のことを歌ってるんです。鬼火との出会いは2018年。彼らの地元の奈良にライブで呼ばれて、ステージにもくらって、人間性にもくらったんです。で、まずは鬼火に「一緒に曲を作りたいから関西に行きます」と伝えて。そしたら「774のスタジオに行こう」と。奈良で鬼火と合流して兵庫の774さんのスタジオまで車で行って、その場で書いて、録って。これもその日のうちに全部できました。

ーーこの曲ではラウドロック/ミクスチャーパンクにアプローチしていて新鮮でした。

輪入道:774さんのスタジオで何曲か聞かせてもらった中で、最初に聴いたトラックがこれで。アルバムの中だと浮いてしまうかもしれないけど、このトラックに乗せて“光”というテーマが歌えたら超やばいな、と全員の意見が一致したんです。なので、全体を通して1曲だけかなり曲のテイストが違うんですけど、新しい引き出しを開けてもらった感じですね。

ーー最後の「Solo( Track by yamashiro keisaku)」という曲は、どのような思いから書いたんですか?

輪入道:これは今苦しんでいる人たちに聞いて欲しいなと思って書きました。

ーー今、闇の中にいる人たち?

輪入道:そうですね。それに尽きる。「Solo」を聴いても何の答えも出ないかもしれないけど、回復のヒントにはなると思うんです。その手がかりが見つかればいいなと思って、アルバムの最後に持って来ました。これを絶対ラストに入れたくて、自分の中でもすごく大きな意味のある曲になりました。

ーー『光』というアルバムで、怒りがテーマの曲から始まって、最後は闇で終わる。

輪入道:そうですね。やっぱり全然光じゃないですね(笑)。次の5枚目のタイトルは『闇』になるんじゃないかと思ってます(笑)。

ーー1曲目「Meltdown」の最後には〈Black Out〉という言葉が出てきましたが、「Solo」の最後にも〈黒い鳥〉という黒=Blackを使った言葉が出てきます。しかも〈黒い鳥は白くならず〉と歌ってる。

輪入道:ラップを始めたときからそうなんですけど、どこかで「自分は光があたる場所に出られるような人間じゃない」っていう気持ちがずっとあるんです。そんな自分が「光」というテーマで正直に書くとこうなるよなって。ただ、最初と最後は暗闇だとしても、その間がこれだけ輝いているんだったら別に悪くないんじゃないかなっていうか、それが俺の光だから。俺のアルバムで『光』というタイトルだからと言ってキラキラしたものを期待する人はそんなにいないと思うし、これはこれでありだと思ってます。

ーー最後になりますが、今年2月で輪入道さんは30歳になりました。これからどんな30代を過ごしていきたいと思ってますか?

輪入道:8曲目の「帰り道 (Track by salty) 」という曲でも歌ってるんですけど、30年生きてきてそろそろ折り返し地点、ここから先は帰り道なのかなと思っていて。もともと自分は30歳まで生きていないだろうと思ってたんです。だから20代が終わるまでの間にここまで思いきりよくいろんなことができて、それが時々めちゃめちゃ良くない方向に行ってしまった。でも、ここから先を帰り道とするなら、もう少しずついろんなことにこだわれるかなと。

ーー当たって砕けろ的な感じで生きてきて、後悔と反省を繰り返したけど、これからはそれを経験値として糧にしていくということですか?

輪入道:そうですね。今までは行く道だったから、ちょっと過去に縛られていても愛嬌で済んだかもしれないけど、ここから先は帰り道なわけだからそんなことに縛られてる場合じゃないし、もっと前を向いて行かないといけないなって。ここからの帰り道でどれくらいでかいことができるか。30代はそれを考えて生きたいなって思ってます。

ーーその帰り道に今、光は差していますか?

輪入道:めちゃめちゃ差してますよ。良い天気です。

輪入道『光』

■リリース情報
『光』
発売:2020年3月25日(水)
価格:¥2,500(税別)
収録曲:
1. Meltdown (Produced by MUMA)
2. Exit (Produced by zipsies)
3. 壱目 (Produced by Maria Segawa)
4. 光 (Produced by Ekayim)
5. 母ちゃん (Produced by dj honda)
6. Dream (Produced by DJ OASIS)
7. Ring (Produced by はSAN DAVID)
8. 帰り道 (Produced by salty)
9. 日陰者 feat. 鬼火 (Produced by DIGITAL NINJA 774)
10. Intersection (Produced by salty)
11. Skateboard (Produced by zipsies)
12. Solo (Produced by yamashiro keisaku)

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