cero、最新作『Fdf』で示した2020年のモードとは 1stアルバム『WORLD RECORD』から現在に至るまでの音楽変遷を追う

cero『Fdf』

 そして、2020年2月5日にリリースされたシングルが『Fdf』だ。面食らった。これまで以上にJ-POPの枠組みから大きく外れているからだ。前知識がなかったら、これがどこの国の音楽かを正確に判断するのは難しいだろう。アフロなリズム、管楽器の響き、メロウなメロディ、そして女性コーラスなどから構成され、全体的にはミニマルなフレーズの反復が耳に残る。ceroが2020年のモードとして提示してきたのは、そんな音楽だった。

cero「Fdf」

 Spotifyでは、ceroの荒内佑が選曲したプレイリスト「Punch drunk flight」が公開されており、そこにceroの「Fdf」も入っている。2曲が収録されているアーティストは、スフィアン・スティーヴンスとフランク・ザッパ。ともにオーケストラ編成の楽曲も収録されているのは興味深い。「Fdf」で木管楽器が使われていることとも共通している。また、「Fdf」の冒頭の電子音は、フランク・ザッパの「Intro」の途中で鳴っている音に似ている。

 プレイリストには、冨田勲の「月の光」やDOOPEESの「LOVE SONGS (LOVE IS A MANY-RAZOR BLADED THING) 」も収録されており、特に気になったのは後者だ。DOOPEESは、ヤン富田がプロデュースして1995年にデビューしたユニットで、実験性とポップさをあわせもっていた。「LOVE」と歌われるフレーズを多数の楽曲からサンプリングしたのが「LOVE SONGS (LOVE IS A MANY-RAZOR BLADED THING) 」で、それに続いてプレイリストで流れだすのはceroの「Fdf」なのだが、続けて聴くとまったく違和感がない。それは、ceroがよりエクスペリメンタルな方向へ歩みだしたかのようなのだ。

「Punch drunk flight」

 なお、プレイリストの最後に収録されているトラックは12分以上ある。アーティスト名はNasa Voyager Golden Record、タイトルは「The Sounds of Earth」。要は、1977年に打ちあげられたボイジャー探査機に載せられていたレコードに収録されていた自然音である。

 ceroに内在する音楽的な飛距離は相当なもののはずだ。今後、彼らがどこまでの冒険に踏みだすのかを楽しみにしたい。次のアルバムは、これまで以上にとんでもないことになる予感がするのだ。

■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter

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