ライブのチケット価格に“正解”はあるのか? 新津由衣の新たな挑戦とともに考える

「みなさんが欲しいのも、結果じゃない気がする」 

――今回のライブを経て「次への課題も見つかりました」ということですが、具体的にどういった課題が見つかったんですか。

新津:私、歌手としての芸歴が16~7年ぐらいあるんですけど、ずっと寄り添ってきてくださっているファンの方とは、かなり強めの信頼関係が築けていることを、今回は確認できました。ただ、それと同じくらい、私のことをそこまで知らなかったり、全く知らない方に向けても広めていきたいと思って活動しています。 その都度思いつくアイディアがその両者に喜んでもらえるか、受け入れてもらえるか、を気にすると行動できないことがあるんです。既存のルールから脱して自分のルールの上をいきたいという思いと、奇抜なことがしたいわけではなくポピュラーに広げていきたいという思いを両立させるには、まだまだだなぁと痛感します。

ーー今後も同じような形態でライブをしていく予定はありますか?

新津:そうですね。今回のライブを通して新津由衣の核が見つけられたので、ゆっくり考えてその時ベストだと思うことを選んでいきたいです。

――「新津由衣の核」とは?

新津:ゆい語で歌った曲(「LOLA」「IDEA」)と「だからぼくは」が、今後の新津由衣の核になっていくと確信しました。元々、私に存在していたけど、うまく表に出せなかったり、出していいのかなと迷っていた表現ですね。実はこのゆい語の曲って「これが日本語になるのが楽しみです」と言われるんですけど、このまま世の中に発表するつもりなんです。

――えっ、そうなんですか!?

新津:制作過程みたいに見えちゃってると思うんですけど、言葉に関してはあれが完成系です(笑)。びっくりされると思いますが、でも「ゆい語で歌っているデモが一番心に響くなあ」というのが正直な気持ちで。 言葉って本来音楽の中でどれほど重要だろうかと、考えたんです。例えば、クラシックは「四季」「運命」とタイトルがついていたとして、そこで展開するストーリーや景色を音だけで表現していますよね。それと同じことをポップスでやってみたいというか、そもそもメロディは世界共通言語だから、日本語にする必要性を感じなかったんです。

――ある種、辺境の民族音楽的というか。

新津:たしかに、新種の民族音楽みたい(笑)。突飛なこと、と思われるかもしれませんが、私としては音楽の起源として一番王道をいく行為だと思っています。

――原点というか原初的なというか。作曲編曲を専業やっている方からそういう考えが出てくるのは分かるんですが、詞も書いている方からそういう考えが出てくるのは新鮮です。

新津:そういう意味でもミュージシャンじゃないんだと思います(笑)。音楽に対する固執があまりなくて、映画のように音楽はあっていいし、絵本のように音楽はあっていいし、そこがすごく自由でありたいと思っているからかもしれません。

ーーそういえば、新津さんは1stアルバムを作ったときに「自分を削っている感覚があった」とお話されていて、1stミニアルバム『まるとさんかく』では「生活を豊かにするなかで生まれた表現があった」と振り返っていましたが、また自分との向き合い方が変わっているように感じました。「この豊かさはどこから来ているんだろう」という問いになっているというか。

新津:そうですね。たしかに今「豊かさとは何だろう?」という方向に向かっている気がします。今まで思っていた「思いやり」や「優しさ」という気持ちに対しても価値観の変化が起きていたり、本当の平和ってなんだろうと考えるようになったり。どこを目指してどんなものを手にしたら豊かになるのか、と考えるモードになっているかもしれません。

ーー新津さん自身も多角的な考え方、情報量の多い表現ができるようになったからこそ、今回のような施策があるような気がします。

新津:届ける以前に自分自身に正直でありたいんですよね。生きていくなかで感じる色んな感情やその時の気分に嘘つかずにいたい。でも、RYTHEMからソロ名義になったときに「音楽を届ける前にひとりの人間として、生きる力や思考を磨いて、それがそのまま反映されるような表現をしたい」と思って8年間もがいていたので、そういう風に思ってもらえるようになったというのは嬉しいです。

ーー今回のように根本から問い直すことって、禅問答的に終わりのないことだと思うんですよ。

新津:これも過程なのかもしれないですね。答えは良くも悪くも私の中になくて、ここから何かへ変化していくんだろうなと考えています。でも、従来のルールを破って敵が増えるより、従来のルールに乗っかって考えることをしなくなる方がよっぽどかっこ悪いと思うから、どういう道を選ぶのか、その都度過程を見せていきたいです。

ーー過程を見せることって、ある意味「未完成なもの」を見せることでもあるわけで。作り手としては勇気のいることだと思うんですが、それをできる余裕が生まれてきたのかもしれません。

新津:確かに。今の自分にはすごく自信がありますが、不安定な時代に戸惑う気持ちも一緒に感じているから。こういう風に行動してみたらどうだろう、こうしたら変わるかもしれない、こうしたら失敗した、だけどこうしたらよくなった、と変化の過程を露わにすることも表現の役目かなと。

ーーわかりやすい答えを提示して共感してもらうのではなく、悩むところから一緒に体感することで、初めて自分の人生に返ってくるものになるというか。

新津:そう。みなさんが欲しいのも、結果じゃない気がするんですよ。どういった思考で1を2に変えたのか、どうやって答えを出したのかを知りたいというか。音楽はただ聴いてもらうだけのものじゃなくて、ビジュアルや思想も含めてのものだと思うんです。だからこそ、私はもっと生活の中に根付いている「悩んだ時に読みたい本」のような存在でありたい。そのために、こうして音楽以外の問題提起をし続けていくんだと思います。

■ライブ情報
『新津由衣LIVE 2020「Ethereal Pop Vol.4 -地球に生きるみなさまへ- 」』
日時:2020年4月26日 (日)
開場 17:00 開演 18:00
会場:TOKYO FMホール
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