神聖かまってちゃんによる渾身のちばぎん脱退ライブ 会場で目撃した、時を越える美しい物語
二度目のアンコールでは、この日を最後に神聖かまってちゃんを去るちばぎんを差し置いて、の子が長い長いMCをし続けた。しかし、やがて気づいた。の子が自分で「スピーチ」と呼ぶほど長いMCをしてしているのは、このアンコールが終わったら、12年間も活動をともにしてきたちばぎんが本当に神聖かまってちゃんを去ってしまうからだ、と。みさこが、の子の言葉にかぶるのも気にせずにファンへ叫びだした。「最後だよ? 最後だよ!!」。
ちばぎんが決めたこの日のセットリストで、彼が神聖かまってちゃんとして演奏した最後の楽曲は「23才の夏休み」。の子は、この日のライブ中ずっと「終わりは来る」と繰り返していたのに、「23才の夏休み」の途中でついに「最後だからちばぎんのため……」と本音を言いだした。ファンの大合唱が会場に響く。
君が僕にくれたあのキラカード
その背中に貼り付けてやるよ
今すぐに
(神聖かまってちゃん「23才の夏休み」)
神聖かまってちゃんは、2008年に千葉県で結成された4人組だ。ボーカルのの子、キーボードのmono、ベース、コーラスのちばぎん、ドラムのみさこのうち、みさこ以外の3人は幼稚園からの幼なじみだ。
そして、「23才の夏休み」の途中、の子はステージ袖からキラカードを受け取った。幼稚園のとき、の子がちばぎんから「パクった」キラカードだという。演奏中のちばぎんにベースを降ろさせて、キラカードを返すというのだ。monoとみさこだけで演奏を続け、突然幼稚園に戻った「男の子」のふたりを見守りながら、みさこが歌い続ける。「23才の夏休み」の歌詞の通り、の子はちばぎんの背中にキラカードを貼りつけた。ちばぎんが泣く。
さっきまで「予定調和なんていらねぇ!」と叫んでいたの子に、思わず「家から予定調和の準備してるじゃん!」と苦笑してしまった瞬間だったが、しかし心憎い。の子とちばぎんがフロアへダイブしてステージに戻っても、の子はまだ「終わらせねぇぞ!」とギターを掻き鳴らす。誰もがうまく場を終える方法を思いつかない。最終的には、ちばぎんがの子を肩車して退場していった。