あいみょんの歌はすべて“みんなのもの”になる 自身最大規模ツアーで感じた音楽家としての核心

あいみょん、横浜アリーナ公演レポ

写真=永峰拓也

 ちなみに「あいみょんかっこいい!!」という男子からの野太い声が会場から飛んだかと思えば女子からの「あいみょん~~! かわいい!」という黄色い声援も飛ぶ。男性からはかっこいいと言われ、女性からはかわいいと言われる存在。ふと“あいみょん”というのは、ある意味全員にとってのペンネームみたいなものなのかもしれない、と考えたりもした。というのも、会場にいる全あいみょんリスナーにとって、“あいみょん”とは、私であり、僕のことなのではないか? 彼女が紡ぎ、歌って、届けている楽曲は彼女だけのストーリーではなく、他の誰の物語にもなりうる柔らかさと鋭利な部分を兼ね備えている。

写真=永峰拓也

 そのくらい彼女はその存在感ある声と、言葉と音にすべての者の表情と一人称を託し、彼女自身の自我のようなものからは離れたような、どこか達観したストーリーテラー・詩人としての顔だけで歌っているのだな、とこの日のライブでとてもよく理解できた。つまり「なぜ彼女はわりと淡々とした表情で歌うのか」という、私が個人的に持ってきたひとつの問いがクリアになった、ともいえる。

写真=鈴木友莉

 2018年の夏以降、この曲を耳にしない日は無かったと言っても過言ではないくらい、世間に浸透した「マリーゴールド」。そのイントロと同時にさすがに客席からも改めて歓喜の声が上がる。けれども彼女はなお自然体のままステージに立ち、肩の力は抜けたまま、どんなに代表曲であろうとも他の曲と同様にしっかりと歌を届ける。今回のようなアリーナ会場であろうとライブハウスであろうと、彼女はひとつひとつを着実に届けることに集中しているのだろう。

写真=鈴木友莉

 終盤にあいみょんは、この横浜アリーナの公演日が来てしまうことが怖かったと打ち明けた。「でもこれはポジティブな“こわい”だから。ゴールテープを切る時って少しこわいもの。なんだかまだ終わってほしくない。4年前には、どうやったら私は横浜アリーナでできるのだろうと、別の人のライブを観ながら考えていた。だから全然、今ここでやれていることだって当たり前じゃないなって思います。でもこれはポジティブな終わりだから。絶対またここに戻ってきたいと思います!」と伝え、MCを締めくくった。「今日はもう最後だし、喉が潰れてもいいほどに出し切る感じで行きたい」と話してスタートしたツアー本編ファイナルだが、最後の最後まで彼女はほぼ一音も掠れさせることなく、歌の力を落とさぬままにこの日も全22曲を伝えきった。

写真=鈴木友莉

 個人的にこの日のライブは「“あいみょんというミーム”みたいなものにもっと触れ、もっともっとその真相を知りたい」という、わりと客観的な気持ちで臨んでいた。だがライブが終わり、自分自身もそのミームに感染した後に、熱い気持ちのまま会場から出てくる10代や20代の女の子たちと肩を並べて歩いていると、このライブ後の感想を持った彼女たちの話をひたすらに聞いてみたい、というような気持ちにさらに駆られた。

写真=鈴木友莉

 制服で来ている女子高生2人組などを何組も見かけたのも印象的だったし、会場を出るなりイヤホンをつけながら一緒に歌いながら帰っている女の子たちもいた。きっとあいみょんのアルバムタイトル通りの“瞬間的シックスセンス”的なものでここにいる女の子や男の子たちはつながっているんだなあということが、その静かながらだだ漏れている熱からどうしたって伝わってきてしまったがゆえだ。そんな光景のみずみずしさが、あまりに心に刺さって仕方ないのだった。

 「マリーゴールド」や「君はロックを聴かない」のようなフォーク~J-POPの王道ともいえるような旋律を持つエバーグリーン的な楽曲が平成の最後から令和の最初にかけて、そして2010年代から2020年代への架け橋であるかのように、こうやって新時代を生きるナウなヤング(死語)たちにしっかりと届いている。こうやって“みんなのもの”になる歌を生み出してくれる、あいみょんがいる。そんな日本は、まだまだ全然捨てたもんじゃないのかも、と30代の自分にも思わせてくれるような、グッドミュージックの熱とパワーに気づかされる、希望に満ちた夜だった。

(メイン写真=永峰拓也)

■鈴木 絵美里
1981年東京都生まれ、神奈川県育ち。東京外国語大学卒。
ディレクター・編集者として広告代理店、出版社にて10年間勤務の後、2015年より独立。現在はWEB、紙、イベントを軸としたコンテンツの企画・ディレクションおよび執筆に携わる。音楽、映画、舞台、テレビ、ラジオなどエンタテイメントを広く愛好。

あいみょん オフィシャルサイト

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