L'Arc~en~CielのMVを通してより深い“沼”へ 現実離れした世界観や音と映像のリンクなどを紐解く

 いくら私が文字に起こしてもやはり百聞は一見に如かず。ということでこれから実際にMVを視聴する方に向けて、より楽しめる要素をご紹介しようと思う。まずは「花葬」についてだ。オールバックに眉なしでタイトなスーツという異様な出で立ちのhydeだが、このMVのためだけに自身の眉毛を全て剃り落としたのだという。映像の力でより楽曲の魅力が深まるのであれば、己の眉毛など葬るというこだわりの強いhydeならではのエピソードである。他には「Link」の撮影時にkenが足を骨折したことがあったそう。骨折の痛みを我慢しながら撮ったシーンがあるのかも、なんて目線で観てみるのも面白い。また、以前に自身の所有する楽器を紹介する、というコーナーをファンクラブの会報で設けたほど、多数のベースを所有しているtetsuya。MV撮影時にはその時期のメイン機を持つこともあるのだが、映像感に合わせてベースをチョイスしているという面もあるのではないか。例えば「叙情詩」ではバイオリンベースを携えており、絵画をモチーフにした映像に見事溶け込んでいる。こういったところにリーダーならではのこだわりを感じる。さらに、とある時期からtetsuyaは5弦ベースを使用するようになった。過去の作品からずっと追っていくと、どこで5弦に変わったのか気づけるかもしれないし、その時点でどういう風に音が変わったのかわかってくるかもしれない。この辺りに着目し始めると、もうほとんど全身沼に沈んでいると言っていいだろう。そして、yukihiroのドラムセットも時期によって様々な変化を遂げている。加入当初に比べると、現在の方がプレイする彼の姿が正面から見えやすいのだ。これは音の鳴りを追求した結果、タムの角度を地面と平行気味にしたことによる副産物である。その他にも時期によってシンバルの配置なども変わっている。音と映像を照らし合わせつつ、時期による音とドラムセットの組み方の違いを探してみるのも、通の楽しみ方ではないだろうか。

L'Arc~en~Ciel「花葬」-Music Clip- [L'Arc~en~Ciel Selected 10]
L'Arc~en~Ciel「DRINK IT DOWN」-Music Clip- [L'Arc~en~Ciel Selected 10]
L'Arc~en~Ciel「Don't be Afraid」-Music Clip- [L'Arc~en~Ciel Selected 10]

 多彩な楽曲を展開するラルクだが、昔から彼らにとって映像はプロモーションの手法という側面よりも、楽曲の色彩をさらに鮮やかに表現するという役割の方が大きいように感じる。長い歳月の中で常に進化し、表現をし続けてきたラルクのMVは、時代の大きなうねりを利用し、人々のデバイスの中でいつでも楽しめるものになった。サブスク解禁になったことにより、これまで作品を購入し続けてきたファンからは否定的な意見が上がるのも想像に難くない。だが、幼少期からラルクのMVやライブビデオを見続けてきた私は、むしろラルクこそサブスクが向いているバンドだと感じている。仮に、高校生の若者が初めてラルクを聴いてかっこいい! と感じたとしよう。それでもサブスクが解禁されていなければ、少し前の彼らと、これからの彼らしか追えないかもしれない。流行り廃りとは無縁の数々の名曲を味わうことができないかもしれない。だが実際は違う。有名な曲しか知らないライト層も、これからラルクに出会う人も、古くから応援している人も、今回のサブスク解禁により、古くからある楽曲にも届きやすいし、各々の形でラルクの世界を楽しむことができるようになったのだと私は思う。時代が姿を変えていくと同時に、彼らの表現の形も進化し、より多くの人間を魅了していくことだろう。彼らが空にかけた虹の先には、果てしない未来が続いている。

L'Arc~en~Ciel「New World」-Music Clip- [L'Arc~en~Ciel Selected 10]
L'Arc~en~Ciel「虹」-Music Clip- [L'Arc~en~Ciel Selected 10]

■タンタンメン
自身の活動から得た経験を元に音楽記事を執筆する元バンドマンのフリーライター
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