Hump Back、TETORA、東京初期衝動、BRATS……圧倒的なフロントマン擁する、次世代担う女性バンド
東京初期衝動
運動も勉強も不得意だったけど、楽器を手にすれば無敵になれるような気がした。ロックに憧れていたあの頃の初期衝動を呼び起こしてくれるような、そんな音をかき鳴らすのが東京初期衝動である。
椎名ちゃん(Vo/Gt)の歌はつっけんどんで、人を寄せ付けないヒリヒリとした感情が迸る。一切後ろを振り向かず、ただひたすらに前に突っ走っている。その様は、媚びも綺麗事もない地に足の着いたリアルでもある。若い女性の、というより“ギャル”ノリの強引で暴力的でもある感性をハードコア&パンクに落とし込み、絶妙なキャッチーさを生み出している。といった、狙ってできるものではない天性と、頭のキレを感じさせる確信犯的なバランス感覚を持ち合わせた比類なきアーティスト魂を彼女から感じざるを得ない。なんだか無条件に心躍らされるメロディは、コードやスケールといった小難しい音楽のセオリー抜きに赴くまま吐き出されたソングライティングだろうと思う反面で、最新アルバム『SWEET 17 MONSTERS』を何度も聴いていると、実はちゃんと考えに考え抜いて制作されているのでは? とさえ思えてくる。
破天荒で煙を巻いていくような言動であったり、なんだかつかみどころのないバンドであるものの、音楽に対する情熱は人一倍強い。溢れんばかりの激情をそのままに音を鳴らすライブや、“インディペンデント”と表すよりも“DIY”というべきひたむきな活動を取ってみても、バンドと音楽に対する実直で健気な姿勢が、この根拠はないが無敵感を放つ東京初期衝動の音楽を生み出しているのだと思う。
BRATS
元LADYBABY、黒宮れい(Vo)の斜に構えたボーカルが噛み付くように襲い掛かり、吐き捨てるようにけたたましく吠えるBRATS。
己の負の感情を思いっきり叩きつけていくような強さ、最近のロックバンドが忘れてしまったような“アブなさ”と“あやうさ”を持つ。そうしたキケンな香りを漂わせている様は、90年代初頭アメリカでの“Riot Grrrl(ライオット・ガール)”ムーブメントのバンドを思い出してみたりするのだ。グランジ、メタルをも内包するような無骨でヘヴィなサウンドも、どこか90'sオルタナティブロックの隆盛を想起させる。
アイドル時代から、もっといえば、世に出てきた時から異彩を放っていた、れいのカリスマ性は、アイドルを経てロックバンドのボーカリスト、フロントマンとして結実したと言っていいだろう。狂気的で猟奇的なダークオーラを纏った女性フロントマンを久々に見たのである。
精力的なライブ活動は国内だけに留まらず、台湾、韓国などアジア進出も果たしている。先日発表されたエイベックスのバックアップによる新事務所と新レーベルの設立、そして7カ月連続配信リリースと、ますます攻勢のスピードを加速させていくBRATSから目が離せない。
他にも、先日惜しくも活動休止を発表したが、モデルでありインフルエンサーとして10代~20代女性の圧倒的な支持を得ている佐藤ノア率いるsuga/es、UNITEDのベーシスト、故・横山明裕の意思を継ぐ、元PASSPO☆の増井みおがベースボーカルを務めるBabooBeeをはじめ、元アイドルネッサンスの石野理子の加入で生まれ変わった赤い公園など、強烈な個性を持った女性フロントマンのバンドは増えている。得も言われぬ音楽性と不条理なアンサンブルで異彩を放つバンド、tricotのギターボーカル、中嶋イッキュウが、ジェニーハイでギターを持たずにハンドマイクでの新たなボーカルスタイルで多くの人を惹きつけていることは今さら説明することもないだろう。今あらためて言う、女性バンドマン、女性フロントマンがアツいのだ。
■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログ/Twitter