CONCEPT EP『REACT』インタビュー

和楽器バンド 町屋に聞く、和楽器とロックの融合を成立させるバランス感覚「今持ってる手札でどう勝つか」

 2019年6月、突如<ユニバーサル ミュージック>とのグローバルパートナーシップ契約を発表した和楽器バンド。12月4日には移籍初のCONCEPT EP 『REACT』をリリースし、2020年には、大阪城ホールで2度目となるオーケストラとの共演ライブ、そして毎年恒例の『大新年会 2020』は東京・両国国技館2Days公演など、日本の伝統芸能を伝えるエンターテインメント集団として華々しい活動が控えている。

和楽器バンド / 「Ignite」 MUSIC VIDEO / WAGAKKIBAND "Ignite"

 結成から今日まで、和楽器とロックサウンドの融合を追求し、音楽シーンの中でも唯一無二の存在感を放ってきた彼ら。おそらく和楽器バンドのライブを初めて観た時に感じるのは、なぜ津軽三味線や尺八、和太鼓、箏が、エレキギターやベース、ドラムといった洋楽器と反発することなく調和しているのか、という疑問だろう。

 その音の調和の秘密を探るべく、今回は和楽器バンドのサウンド面を担うメンバーである町屋(Gt)に話を聞く機会を得た。和楽器バンドとして積み上げてきた経験と新たな挑戦を詰め込んだという最新EP『REACT』の制作秘話から、町屋個人としてのバンド観や自身の作家性、そして“すべてを出し切った”と言いながらも、先を見据える和楽器バンドのこれからについて聞いた。(編集部)

僕の役割は他のメンバーがイメージしたものを形にすること

町屋

ーーメンバー全員インタビューだと、町屋さんはサウンド面の話以外はわりと黙って聞いているイメージが強いです。

町屋:そうですね。僕の役割って他のメンバーがイメージしたものを形にすることだと思っているんで。自分で作詞作曲するときは、全て僕の世界のなかで説明がつくように音を形にしていくんですけど、メンバーの曲をアレンジする場合は、その人がどういう音にしたいか、どういうふうに聴かせたいかというところを形にしていく作業になります。

ーーそれにしても、今回のレーベル移籍には驚きました。この決断に至った理由を聞かせてください。

町屋:僕らは元々、海外に目を向けて活動していたところもあったし、実際、海外公演も多くて。でも、国内のツアーは毎年やってますけど、海外は一度だけアメリカ西海岸ツアーをやった以外は単発になりがちで、ヨーロッパにはデビュー年の2014年に行ったフランスのほかは全く行ってないんですよ。そうやって海外の市場を取りこぼしてきたので、これからは世界を全て視野に入れた上で取り組んでいきたくて。それで、今話したような僕らがやりたいこと、出していきたい色というものによりマッチングするレーベルということで<ユニバーサル ミュージック>と契約に至りました。

ーー最終的に決め手になったのは?

町屋:環境がよくも悪くも全部変わることに関しては、メンバー内でも意見が割れたことはありました。これまでの状態を保つほうが未来のことは想像しやすいと思うし、しかもレコード会社もマネージメントも変えるというのは、自分の血を30%ぐらい残して、70%を入れ替えるみたいな作業になる。その結果、相性が合えばすごくいいけど、もし合わなかった場合はこわいことにもなり得るので、何度も話し合いましたね。

ーーバンドをどう運営していくかというのは難しいですよね。

町屋:リーダーは鈴華(ゆう子)なので、基本的には彼女が舵を取るんですけど、メンバー一人ひとりにももちろん意見があって。でも、僕はそういうときにあまり意見を言わないほうなんですよ。そのとき自分に与えられた状況で最善を尽くすというのが生きていく上で僕の根底にあって、それがすごく恵まれた環境であってもそうでなくてもやれることをやるし、そこで楽しみを見つけるというのが大事だと思ってるんですよね。

ーーそこが地獄だろうがなんだろうが。

町屋:地獄は地獄なりに楽しいことがあると思うんですよ(笑)。

ーーわりとポジティブなんですね。

町屋:そうですね。なるようにしかならないというか、与えられている環境がいいか悪いかっていうのはその人なりの感じ方だと思うんですよ。僕、和楽器バンドとしてデビューする前までは自分の音楽を探求することが目標で、届ける広さで言うと、リキッド(恵比寿リキッドルーム)ぐらいまでいければいいかなと思ってて。安定して1000~2000人ぐらいのお客さんが観に来てくれれば生活は成り立つし、そのなかで無理なく音楽を追求していけたらいいというのが20代の頃の価値観だったんです。でも今、こうやって大きい舞台に立っているうちに、もっと多角的にエンターテインメントとしていろんな人を魅了するためにどういう音作りやステージ作りをしたらいいのかっていうふうに考え方がシフトしていきました。

移籍後の覚悟は「Ignite」の歌詞で思いっきり出してる

ーーでは、楽曲の話に移りたいんですが、和楽器バンドは前作『オトノエ』で新たな方向性を示したばかりなのに、今回の移籍に伴ってブランクができてしまいました。この間、どうやって過ごしていたんですか。

町屋:基本的にはわりとみんなお休みでしたね。僕も思い立ったら曲を書いたりするぐらいで。でも、それはそれで大事な時間なんですよ。常にネタを出しっぱなしにしてると引き出しが空っぽになっちゃうし、音楽と全然関係ないところから新しいものを詰め込んでいく作業もアーティストとして大事だと思うので、寝てる時間も遊んでる時間も糧になったと思います。

ーーその期間に得たものが今作に反映されていたり?

町屋:環境が変わって一度走り出したらあとには引けなくなるので、それに対する覚悟は「Ignite」の歌詞で思いっきり出してるし、曲調にも新しい血を入れてます。活動を継続していくなかでバンドはよくも悪くも変化していくし、僕も含めて年齢を重ねるうちにメンバーの価値観も変わっていきますけど、デビュー6年目にしてなお攻め続けるという姿勢をそのまま書けていると思いますね。

ーーその変化は前作からの自然な流れですか。

町屋:『オトノエ』って、和楽器バンドがそれまで積み重ねてきた集大成だと思っていて。それまでの5年間、レコーディングやアンサンブルの経験を重ねてきたなかで、それぞれの楽器が一番聞こえやすくて、みんなに見せどころがあるようなおいしいとこどりをするためには何を削ぎ落としたらいいのかっていう整理がきちんとできた作品なんですよ。そのセオリーを持ったまま新しいチャレンジをするというのが今回のテーマとしてありました。

ーーなるほど。

町屋:例えば、4曲目の「情景エフェクター」は亜沙が1人でやった部分が多いので、僕はあまり手を付けていないんですけど、ギターに関しては和楽器バンドで今までやったことのないアプローチをしてます。まず、ディストーションギターで(音の)壁をつくって、4分のキックに対してサイドチェインをかける。よくEDMでベースが“ブゥワブゥワ!”って鳴ってるじゃないですか。あれをギターで薄っすら弾いてます。

ーーこの曲から感じるEDM感はその影響もあるんですね。

町屋:そうです。「和楽器バンドでEDMを演奏したら」っていうテーマが亜沙のなかにあったので、そのために必要なものを僕が考えました。僕らの曲は和楽器が入るとすごく生っぽくなるので、そこでどうやってEDM感を出そうか考えたときに、まずサイドチェインはマストでした。あと、アコギのストロークが右チャンネルでずっと鳴ってると思うんですけど、アコギを使ったオーガニックなEDMを意識していて。なので、今のバンド編成でEDMっぽくするってなったときに出た答えはサイドチェインとそれと相反するオーガニックなアコギだったんですよ。

ーーなるほど。

町屋:あと、「IZANA」は鈴華の曲で、前作で言うと「砂漠の子守唄」みたいな重厚で物語性のあるバラードに分類されると思うんですけど、今回はギターの本数をものすごく減らしてます。これまでは必ず2本でディストーションの壁をつくって、サビでバーン! とアンサンブルを出していたんですけど。

ーーその分、ストリングスで厚みを出しているんですか。

町屋:ストリングスは情報量はあるんですけど、それだけでは出せないパンチがあるんですよ。ギターは和声的な部分よりも派手さやパンチ力がアレンジの際に求められるので、この曲でも必要最低限のパンチを加えてます。でも、ただでさえオーケストラが派手に入ってるし、ギターは音をちょっと上げると和楽器を全部かき消してしまうので、そのへんをいかに間引くかということを考えましたね。

ーー今作は、どの曲に対しても今お話されたような交通整理がしっかりされていて、音数が全体的に減っている印象です。

町屋:うちは昔からギターを最後に録るんですけど、交通整理をするためにそこでボリューム感を調整してるんですよ。ただ、今回は環境が変わったことで前よりも自分でハンドリングできる部分が増えて、今はほぼ好きにやらせてもらってるので、ここまですっきりさせられました。

ーー元々、この形が理想だったんですね。

町屋:そうですね。このバンドが始まったときは元々、ギターを入れない想定で曲を録っていたらしくて、全部録り終わってから「なんか寂しいからギターを足そう」ってことで僕がオリジナルメンバーとして最後に加入したんです。なので、最初は和楽器を活かすためにアコギを入れたんですけど、メンバーから「そうじゃない」って言われてエレキで録り直したことがあって。それ以降は、激しい曲もバラードも歪みの量とかギターの選び方で音圧を調整することで和楽器をしっかり聴かせつつ、ギターも聴こえるようにして、そのベストのバランスが『オトノエ』で掴めて、今に至るって感じですね。

ーー大変そうですね。

町屋:でも、昔に比べるとデモの完成度はかなり高いですよ。前はみんなでアレンジを持ち寄っていたんですけど、今は僕が指定する範囲が増えたので、そうすることでデモの設計図が精度の高いものになったんです。その設計図をもとに、よりよい音、集音、テイク、フレージングについて各メンバーが話し合いながらレコーディングするので、前よりも狙った音を狙ったように録れるようになりました。

ーーそうだったんですね。まあ、音がビチビチに詰まってる初期の雰囲気もいいんですけどね。

町屋:それがいいって言ってくれる方ももちろんいますね。あの頃の音を聴き返すと、今では出せないようなバンドとしての若さが詰まってて(笑)。でも今、意図的にあの頃の音に逆行するのも違う気がするし、ここからまた一周してそこにたどり着く可能性もあると思うんですよね。今は「これが今の僕たちだよ」というのものを提示できてるし、よりバンドらしいと思います。

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