[ALEXANDROS]、異彩を放つ最新曲「あまりにも素敵な夜だから」で伝える“音の楽しさ”

 川上洋平はアルバム発売時のインタビューで「昔のものは早く捨てたい」と言い放っていた。『Sleepless in Brooklyn』は、彼らにとっていわば“再デビュー作”のようなものだったのかもしれない。それまでのサウンドを踏襲しながらも、ある種“捨て去っていく”ほどの感覚でブラッシュアップを加えたこの作品を経た今、「あまりにも素敵な夜だから」で改めて[ALEXANDROS]が聴かせるのは、“音楽は気持ちが良いものだ”という大前提だ。

 [ALEXANDROS]は、デビュー当時から全英語詞の楽曲なども当たり前にリリースしてきた。ほかにも全英語詞を取り扱うバンドが同世代にも多い中、群を抜いてネイティブの洋楽に近いアプローチをボーカルテクニックや歌詞の点でも徹底してきた彼らだが、ともすれば国内のリスナーとは距離が生まれてしまいかねないスタイルを貫き続けているのは、自らのサウンドアプローチへの圧倒的な自信があるからなのではないだろうか。

 シンプルな楽曲の中にもグローバルな表現を取り入れ、どこまでもフラットに“音楽的な気持ち良さ”を徹底した今作には、爽快感や陶酔感、浮遊感などリスナーの体感的な感覚までをも支配しうるテクニックがさりげなく詰め込まれている。そして、その心地よさに身を委ねている間に、歌詞を聴き込む前から楽曲に込められたメッセージや物語まで感じ取れてしまうのだ。

 英語詞は国内のリスナーには完璧には理解してもらえないかもしれない(現に、[ALEXANDROS]の多くの楽曲のMVでは日本語訳の字幕を入れる試みも行われている)。一方で、日本語のみの詞だと海外のリスナーには伝えたいメッセージが伝わりきらない可能性もある。その上で[ALEXANDROS]がリスナーの心を掌握するロックバンドとなりえたのは、国境を越えて伝えることができる“音の楽しさ”をひたむきに貫いているからではないだろうか。「あまりにも素敵な夜だから」は、そんな彼らの最新の姿が凝縮されたポップスだ。

■五十嵐文章(いがらし ふみあき)
音楽ライター。主に邦楽ロックについて関心が強く、「rockinon. com」「UtaTen」などの音楽情報メディアにレビュー/ライブレポート/コラムなどを掲載。noteにて個人の趣味全開のエッセイなども執筆中。ジャニーズでは嵐が好き。
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