『infinite synthesis 5』インタビュー

fripSide「only my railgun」から積み重ねた10年 南條愛乃と八木沼悟志が互いの変化を語る

南條さんの歌は僕の予測をいつも上回る(八木沼)

ーーそういう南條さんの歌い手としての成長は、八木沼さんの作る楽曲やメロディにも反映されているんでしょうか?

八木沼:引っ張られるものはありますね。南ちゃんの声や歌い方に曲を寄せないとてんでバラバラになってしまいますし、「きっとこういうふうに歌ってくれるだろう」という予測のもと曲を作りますから。これが新人の歌手だったら、クリエイター側がどうしたらベストな歌を引き出すことができるかを常に考えなくてはいけない。だけど、南條さんの歌は僕の予測をいつも上回るし、「じゃあここの部分は歌に助けてもらおう」と頼ることもできるので、だいぶ楽をさせてもらっている印象がありますね。

南條:いやいやいや(笑)。って、本日三度目の「いやいやいや」ですよ(笑)。

ーー(笑)。その積み重ねの10年だったと。

八木沼:そうですね。たぶん僕の「こうしてほしい、こう歌ってほしい、このラインを突破してほしい」という考えを、わかっていらっしゃるんじゃないかなという気がします。

南條:一時期、歌い方に関して「どのラインまでが、どの範囲までがfripSideなんだろう」ということを試しながらレコーディングしていた時期があったんですよ。「future gazer」(2010年10月発売の3rdシングル曲)よりもうちょっとあとぐらいかな。例えば、ほかの現場で違う表現を見つけてきて、それをfripSideに取り入れてみようと実践するんです。例えばAメロを歌っていたとして、Aメロの最後だけいつもと違う表現を含ませて歌うと、sat(八木沼)さんはどこがダメとは言わずに「Aメロをもう一回」と指示するんですね(笑)。

八木沼:ふふふ(笑)。

南條:で、歌い方を戻すと「OK、いいよ!」みたいな(笑)。「なるほど、これはfripSideじゃないんだな」みたいな、そういうことの積み重ねでfripSideらしさみたいなものが自分の中に蓄積されていきました。

 あとは、ライブの存在もすごく大きいなと思っていて。レコーディングではすごく繊細に、「fripSideらしさ」というものをいい音で録れるし、音に集中して声を録っていくイメージなんですけど、ライブはやっぱりお客さんと一緒に盛り上がる場だし、レコーディングで歌ったものよりもさらに強い声を出したりする。そこから、ライブで身に付いたものが徐々に次のレコーディングにフィードバックされて、「今までの歌い方とは違ってライブ寄りだけど、これはありなんだ」という可能性がどんどん広がってきての今、という感じがしますね。

ーーそういう経験の積み重ねが、fripSideらしさの共通認識を強めていったところもあるんでしょうか。

南條:共通認識やイメージのすり合わせはしてないですけど、積み重ねによる部分は大きいと思います。それと同時に、イメージも最初にあったものからどんどん更新されている。目標のイメージに近づくと、次に作るときはさらに更新されているみたいなことが、ずっと繰り返されていて。

八木沼:常にアップデートしているよね。もう100曲近くいったかな、俺と南ちゃんの曲って。相当たくさん作ってきたけど、今回のアルバム作りにおいてもアップデートしながらやっている感じはありましたね。

昔は「fripSideはこういうものだ」という縛りが強すぎた(八木沼)

ーー歌詞についても聞かせてください。前回のインタビュー(※参照:fripSide 八木沼悟志が語る、アレンジに対するこだわり「メロディメーカーでいることが第一」)でも八木沼さんは歌詞について語られていましたが、この10年で歌詞の部分でも成長が見られるのかなと思っていて。

八木沼:僕も南ちゃんもそうなんですけど、歌詞の面が一番進歩したんじゃないかと思います。何を持ってして進歩とするのかは難しいですけど、いろんな表現が変幻自在、緩急自在にできるようになった印象もあるし。昔はもうちょっと意固地になって、「fripSideの歌詞はこういうものだ」という縛りが僕の中で強すぎたんですけど、今はもっと自由でいいし、場合によってはひとりよがりでも全然面白いし、そのfひろがんじゃないかなと思います。

ーーそもそも、八木沼さんの作詞家としてのルーツってどこにあるんでしょう?

八木沼:幼い頃から文章を書くのが好きで。かつ、ピアノを習う際にうちの母親が「譜面どおりに弾くだけじゃなく、あなた曲を考えなさい。それに言葉を付けてみなさい」と言うような家だったんですね。なので、小学生の頃から作詞や作曲は遊びのような感覚でやっていました。でも、こういう小難しい文章を書くようになったのは、中学生ぐらいだったかな。オリジナルソングをプロになるまでにたくさん作って、自分なりに「これはいい、これは悪い」と線を引くことで自分のスタイルが出来上がったけど、プロになってからしばらく「自分のスタイルはこれだ」と固執しすぎたのがダメだったのかな(笑)。

ーー例えば、アニメのタイアップではテーマが用意され、そこに寄り添って歌詞を完成させるわけですが、思いのままに表現していく手法とはまた異なりますよね。

八木沼:そうですね。アニソンタイアップで歌詞を書くとき……そうだ。実は僕、一度もアニメの制作サイドからダメ出しとか「直してほしい」と言われたことがないんですよ。

ーーそれ、すごいですね!

八木沼:それだけが自慢で(笑)。なので、事前に相当ストーリーを読み込みます。やっぱり、アニメのファンが曲を聴いたときにがっかりされたくないので、全部を調べ上げて、時間をかけて読み込んで、そのあとに書くんです。その原作のファン、例えばアニメにいろんな登場人物がいたとすると、曲を聴いた主人公のファンをがっかりさせたくないし、この脇役のファンもがっかりさせたくない。さらに、原作の先生が聴いてもがっかりしないようにとか、ありとあらゆることを考えて、かつアニメに興味はないけどfripSideの音楽には興味がある人たちもがっかりしない、いろんなバランスをうまく取りながら、限定しないんだけど作品という括りでは限定されているという歌詞を、いつも心がけて書いているつもりです。非常に難しい作業ですけどね。

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