アルバム『LIV TOWER』インタビュー

片想いが考える、バンドを進化させる“課外活動”の重要性「それぞれがインディペンデントな存在」

 8人組の男女混成バンド、片想いによる前作『QUIERO V.I.P.』からおよそ3年ぶり通算3枚目のアルバム『LIV TOWER』がリリースされた。ソウルやファンク、ヒップホップなどに影響を受けつつ、昭和歌謡やJ-POPにも通じるどこか懐かしくもポップなメロディ。「R&B=リズム&慕情」と自ら標榜するその世界観は健在で、今回そこにプログレッシブかつサイケデリックな要素を加えることによって、まるでエレクトリック・マイルス時代を彷彿とさせるような混沌としたサウンドスケープを築き上げている。

 実は彼ら、ボーカルの片岡シンは銭湯を運営し、MC.sirafuはザ・なつやすみバンドやうつくしきひかりなど多数のプロジェクトを並行して活動。他のメンバーもそれぞれソロ作品をリリースしたり、妊娠から出産そして子育てに追われたりと、片想いとしての活動のみならず様々な「課外活動」を展開しており、そのフィードバックによって片想いの音楽性をより先へと進化させているのは間違いないだろう。

 今回リアルサウンドでは、片岡とsirafu、そしてオラリーの3人による鼎談を企画。アルバムについてはもちろん、バンドに対するスタンスの違い、活動を長続きさせるための方法など、多岐にわたるトピックをざっくばらんに語り合ってもらった。(黒田隆憲)

他のバンドとはちょっと違う経緯で集まったメンバーたち

ーーアルバムとしては、前作『QUIERO V.I.P』(2016年)から3年ぶりとなりますが、本作に至るまでの経緯をまずは聞かせてもらえますか?

片岡:割と「半年ぶりのライブ」みたいな状態が続いていましたね(笑)。オラリーの妊娠、出産という大きな出来事もありつつ。実は、その間にミニアルバムを出す計画もあったのですが、途中から「やっぱり出すならフルアルバムに変えよう」という方針に変わったりして。それでライブを休んでいる時期もかなりあったんです。

ーー片岡さんは銭湯の運営をしながら、並行して音楽活動も行なっているのですよね?

片岡:そうですね。割合でいうと、9割6分はお店にいるんじゃないかな(笑)。

ーー他のメンバーの皆さんも、仕事を掛け持ちながら音楽をやる人もいれば、音楽を生業にしている人もいるし、オラリーさんのように妊娠、子育てされる方もいる。各々が自由なスタンスで「片想い」というバンドに携わっているのも、ある意味ユニークですよね。それがバンドに良い作用をもたらしてもいますか?

片岡:そうですね。ただ、それぞれの生活ありきで続けるというのは、結成当時から変わっていないんですよ。最初から全く違う環境で暮らしているというのもあって、程よい距離感を取り続けている。なので、ちょっとライブが空いたりしても、「これが片想いなんだよな」という余裕みたいなものもあって(笑)、 「解散」とかそういう心配をする必要は全くないんですよね。

 ただ、そんな自分たちのスタンスを、「仕事しながらやってる俺たち、すごいだろ?」とも思っていないです(笑)。むしろメンバー全員が音楽だけで食べていく覚悟を持っている人たちの方が、俺たちなんかよりずっと凄いしリスペクトしています。僕らはほんと、出来る範囲のところでやっている感じですから。

ーー「メンバーそれぞれが無理のない範囲で」というスタンスを、結成時から貫いているのはユニークですよね。途中でそうなっていくケースはよくあると思うんですけど。

片岡:確かにね。きっとそれは、片想いというバンドを20代後半から始めたので、そもそも「売れる」とも「売れよう」とも思っていなかったというか。まさか数年後に大きなフェスに出られるようになるなんて、想像もしていなかったですしね。

ーーそもそも、バンドを結成した時にはどんな音楽をやろうと思っていたのですか?

片岡:最初はMC.sirafuと、「何か面白いことをやりたいね」と話していました。それはバンドに限らず演劇でも映像でもいいのだけど、何かそういうパフォーマンスを、小さい場所でもいいからやれたらいいなというのがまずあったんです。そんなところから、sirafuは楽器をやっていたし「じゃあ音楽をやろうか」ということになり(笑)。もう一人、鍵盤奏者のissyを誘って3人でスタートしたのがバンドの始まりです。そしてその時には、「やるからにはポップなものがいいよね」という気持ちが、最初はあったかもしれないです。

 ポップなものというのはつまり、「お客さんと一緒に歌える」ということ。歌と熱のこもった音楽が、昔から僕はすごく好きだったんです。あと、僕は石垣島に住んでいたので、地元の民謡に触れたりできたのも大きいと思いますね。

ーー片想いのベースには、ブラックミュージックからの影響も強く感じます。

sirafu:なのに3人で始めた時は、まだリズム隊がいなかったわけですよ(笑)。普通は生ドラムとか入ったりしてグルーヴから作っていくと思うんですけど、ただ世代的にDJ的な視点というか。ソウルやファンクの高揚感、お客さんとの一体感とか、そういうことへの憧れだけで始まったバンドで、そこから10数年かけてメンバーを集めて。やっと今、人力でダンスミュージックができる編成になったんです。

片岡:最初の頃はもう、メチャメチャだったよね。素人の子をいきなりメンバーに入れたりして。

sirafu:もともとこの人(オラリー)がそんな感じだったから。

オラリー:お客さんとして普通に観に行っていたんですけど、いつの間にかステージに立っていて(笑)。しかも初ライブから真ん中で歌っていたので、一緒に観に行ってた友だちも、私自身もびっくりしていました。

片岡:ただ演奏が上手いやつを、バンドのメンバーに入れようという気はそもそもなくて。オラリーを誘ったのも、あだち(麗三郎)を入れたのも、「何か面白い化学反応が起こるんじゃないか?」という気持ちからなんです。例えば、一つの建物を作るにしても、建築士の目線や現場で指揮を執る人の目線、空間をデザインする人の目線など、様々な立場からの目線によって造られていくわけじゃないですか。そんなふうに、一つの作品に対してメンバーそれぞれのスタンスで携わっていくことが、この片想いというバンドの目的だと思っているので、別に楽器が全員上手くなくても全然問題ないんです。その分、何か他のところでその人の個性を発揮できればそれでいい。そういう、他のバンドとはちょっと違う経緯で集まったメンバーたちなんですよね。

ーー普通は「演奏が上手い」とか「目的が同じ」とか、「聴いている音楽が似ている」とか、そういう基準でメンバーを集めるわけじゃないですか。片想いがメンバーを集める時は何が「基準」になってくるんでしょうね。

片岡:なんだろう……下らないことを面白いと思えるところかな(笑)。そこを共有できるかどうかは重要ですかね。

sirafu:そうだね。下らないものを見て笑ってる時に、全然笑ってないやつとかいたら嫌だし(笑)。あと、生活感がある人が好きかもしれない。僕ら、意外と「音楽が最も大切」だとは思ってないんですよ。僕なんかは音楽活動をしている時以外、なるべく無音で過ごしたいタイプ(笑)。自分のことを「音楽家」だとは思っていないし、価値観の一番上に音楽を置くのは嫌なんです。

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