乃木坂46版『セラミュ 2019』から考える、グループがもつ舞台志向の継承

乃木坂46、グループがもつ舞台志向の継承

 昨年の乃木坂46版『セラミュ』でも特徴のひとつだったのが、グループのなかでまだキャリアの浅いメンバーたちがメインキャストを担う姿だった。今年でいえば、早川聖来(セーラーマーズ/火野レイ)や田村真佑(セーラーヴィーナス/愛野美奈子)といった4期メンバーのキャスティングがそれにあたる。グループ加入からの期間を考えれば昨年版の3期メンバーたちよりもさらに実質的な活動が少ない状態で臨み、セーラー戦士たちを引き継いだ。ここには『セラミュ』そのものの継承とともに、グループがもつ舞台志向の継承をも見いだせる。この二重写しは、彼女たちがバトンを受けた乃木坂46版『セラミュ』によってこそ具現化される。

 昨年も芝居巧者が配役されていたセーラージュピター/木野まことは今回、伊藤純奈が演じている。この3年ほど、舞台演劇分野での活動についていえば、彼女は乃木坂46のなかでも有数の実績を誇っている。今回、『セラミュ』を乃木坂46が引き継ぐ局面でも、出演メンバーたちを統率するような彼女の存在感は、セーラー戦士全体の見栄えを支えている。演じる者たちを継続的に輩出する乃木坂46のアイデンティティにとって、伊藤純奈の継続的な活躍の意義は大きい。

 本編上演後にはスペシャルライブショーが行なわれるが、この時間もまた『セラミュ』の世界観を完遂するための不可欠な時間になる。昨年復活したバンダイ版の『セラミュ』楽曲「La Soldier」のパフォーマンスをはじめとして、ライブショーには久保ら5人の背後に連綿と続く『セラミュ』の系譜を見通すような瞬間が随所に立ち現れる。そして、和田俊輔が手掛けた「運命の貴女へ」は、その系譜の先に引き継がれた乃木坂46版『セラミュ』の歴史を物語るためのアンセムとして響く。

 もちろん、プロジェクション演出が高い効果を生む変身シーンや、人物たちの背景にある都市の表現など、昨年新たなセラミュ像を築いた要素もあらためて確認できる再演になっている。昨年からのウォーリー木下演出を軸に再演された2019年版によって、乃木坂46による『セラミュ』はひとつのスタイルを固めたといっていい。今回の座組による上演は11月の上海公演を残すばかりだが、トータルの上演回数の多寡にかかわらず乃木坂46が、そして新たなセーラー戦士たちがこの作品の系譜を引き継いだことには、得難い価値がある。

■香月孝史(Twitter
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

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