『温泉むすめコンプリートアルバム』インタビュー

『温泉むすめ』プロデューサー橋本竜が語る、地方活性化プロジェクト新展開と2次元コンテンツの今

新曲「湯夢色バトン」は『温泉むすめ』の今を体現する曲

『温泉むすめ 4th LIVE“ NOW ON☆SENSATION!! ” 〜聖夜にワッチョイナ Vol.2〜』の模様

ーーここからは今回リリースされる『温泉むすめコンプリートアルバム』について聞かせてください。「SPRiNGS SIDE」「UNIT SIDE」「SOLO SIDE」の3タイトルに分けてリリースされる本作には、『温泉むすめ』がこれまでに発表してきた全楽曲を収録。CD未収録楽曲10曲、新曲5曲を含む、まさにコンプリートな作品になっています。このタイミングで本作のリリースに踏み切った理由は?

橋本:まず最初にお伝えしておきたいのが、今回コンプリートアルバムを出すことと、9月いっぱいでアプリゲームがクローズしたタイミングが一致してしまったことで、「温泉むすめのプロジェクト自体が終了するのではないか?」と推測されている方もいらっしゃるのですが、今回のアルバムは改めてプロジェクトを盛り上げるためのリリースになります。

 コンプリートアルバムに関しては、自社で立ち上げたJewelry Box Recordsを改名した<OMUSUBIレコード>というレーベルからリリースするのですが、過去のCD作品を様々なレーベルからリリースしてきた関係上、そもそも店頭でCDが購入しにくい状況なんです。そんななか、例えばSPRiNGSの「青春サイダー」がアニクラで流れたり、音楽ゲームの『CHUNITHM』や『オンゲキ』とのコラボレーションで楽曲を使っていただいたりするのですが、外部で流れる機会が多いが故に楽曲だけが独り歩きしてしまって、そもそも『温泉むすめ』の楽曲だということを知らない方が多いんですね。

ーーなるほど。

橋本:それらの楽曲と『温泉むすめ』をリンクさせること、そして現状は集めることが大変なCDや音源を、コンプリートアルバムという形でレーベルの垣根を越えて一つの作品にまとめてリリースすることで、『温泉むすめ』を知ってもらうためのある種の入門キットになればと考えて本作を企画しました。また、今回はCD3枚をセットにした『温泉むすめコンプリートBOX』もリリースしますが、そちらには2018年12月に開催したライブイベント『温泉むすめ 4th LIVE “NOW ON☆SENSATION!!”〜聖夜にワッチョイナ Vol.2〜』のBlu-rayを特典としてつけています。『温泉むすめ』は『SUMMER SONIC 2018』にも出演するぐらいクオリティの高いライブを開催していることを多くの方に知っていただければと思いまして。

『温泉むすめ 4th LIVE“ NOW ON☆SENSATION!! ” 〜聖夜にワッチョイナ Vol.2〜』の模様

ーーとにかく『温泉むすめ』に少しでも興味を持った方がすぐ音源を入手できるような状態を作りたかったと。

橋本:それが一番の理由です。全部で39曲も収録しているので、これを聴けば『温泉むすめ』の楽曲がどういったものかわかりますし、SPRiNGSやAKATSUKIといったユニットごとのバリエーションや個性もバラバラですので、ユニット単位でも興味を持ってもらえるきっかけを作りたかったんです。

ーー『温泉むすめ』のメインユニット・SPRiNGSの楽曲をまとめた『温泉むすめコンプリートアルバム Vol.1〈SPRiNGS SIDE〉』には、待望の新曲「湯夢色バトン」が収録されています。

橋本:この曲は先日試聴動画をアップしたのですが、ファンの方の中には「これはバトンを渡して終わるという意味じゃないか?」と深読みされている方もいまして(笑)。「湯夢色バトン」は「温泉むすめ」の今を体現する曲を作りたくて制作しました。歌詞にも表現されていますが、SPRiNGSはバトンを受け取りもするし渡しもする、いわゆるハブの役割を担っているんですね。SPRiNGSは元々各地域の温泉地を代表する温泉むすめが集まったユニットで、彼女たち9人の活躍が礎となって「温泉むすめ」の2年半があるんです。そんなSPRiNGSが引き続き中心となって、彼女たちの周りの地域にもバトンリレーをするように『温泉むすめ』が波及していけばという願いを込めました。

 作編曲の佐伯高志さん、作詞の畑亜貴さんには「バトン」をテーマにすること、そして今後の広がりを予見させるような、アイドルの王道を意識した楽曲をお願いしました。SPRiNGSとしては2年ぶりの新曲になりますし、SPRiNGSの9人が今この曲を歌うことの必然性とストーリーを持たせた曲にしたかったので、『温泉むすめ』がこれからも周りを巻き込みながら発展していくことを伝えたかったんです。

【試聴動画】湯夢色(ゆめいろ)バトン「SPRiNGS」【温泉むすめ】

ーー佐伯・畑タッグと言えば『ラブライブ!』シリーズで多くの楽曲を手がけてきたことでも知られていますが。

橋本:畑さんには以前に大手町梨稟(CV:楠木ともり)のデビューシングル「Passionate Journey」を含めた2曲を作詞していただきましたし、今回の『温泉むすめコンプリートアルバム Vol.3 〈SOLO SIDE〉』に収録されている有馬楓花(CV:桑原由気)の新曲 「あ・り・ま・す・か?」も書いていただいたのですが、実は畑さんは有馬温泉が大好きでよく通われていまして、元々は有馬温泉の方からご紹介いただいてご縁ができたんです。畑さんは以前から有馬温泉の曲を書きたいというお話をされていたみたいで、『温泉むすめ』の総選挙で有馬楓花が選ばれて曲を作ることが決まったときに、その曲の歌詞を書いていただくお話が進みまして、そのご縁で今回の「湯夢色バトン」も書いていただきました。作曲の佐伯さんに関しては、自分がアイドルど真ん中の楽曲を作っていただける作家さんを探すために様々なコンテンツの楽曲を聴きまくったなか、個人的にすごくキラキラした青春ソングを作れる方だと感じたんです。なのでコンペではなく直接佐伯さんにお願いをしました。

ーーおっしゃる通り近年のアイドルソングの王道を行くような、華やかかつエモーショナルな曲に仕上がっていますね。

橋本:ありがとうございます! 今回、歌割りも気にして作っていただきまして、草津結衣奈役の高田憂希さんのソロから始まり、そこから声がだんだん重なって最終的に合唱になる構成も、現状のSPRiNGSの絆を含めて表現していただきました。それと下呂美月役の佐伯伊織さんは、SPRiNGSとしてレコーディングを行うのは今回が初だったんです(※佐伯は2018年6月に芸能活動から引退した遠藤ゆりかに代わって下呂美月役を引き継いだ)。以前にソロで「咲かせよ 沸かせよ バンバンBURN!」という楽曲をひとり4役で歌っていただいて、ファンの方からも「すごい人がきた!」と評判だったのですが(笑)、やはりSPRiNGSには途中から輪に入っていくこともあって、自分の声が混ざることによってどうなるかを心配されていたと思うんです。今回の楽曲は彼女のそういった心情も聴きどころになっていると思います。

各ユニットが持つ独自のストーリーを伝えたい

『温泉むすめ AKATSUKI 1st Live 〜艶〜』

ーーそしてSPRiNGSのライバルユニットたちの楽曲をまとめた『温泉むすめコンプリートアルバム Vol.2〈UNIT SIDE〉』には、3曲の新曲を収録。まずAKATSUKIの新曲「暁のDiva」は、今年2月に開催されたユニットの単独ライブ『温泉むすめ AKATSUKI 1st Live 〜艶〜』で披露されたナンバーになります。

橋本:AKATSUKIのこれまでの楽曲は鬼怒川日向役の富田美憂さんがセンターだったのですが、この曲では別府環綺役の岩橋由佳さんがセンターを務めています。というのも、ライブではAKATSUKIの結成秘話を20分ぐらいの朗読ドラマで披露したのですが、AKATSUKIのメンバーは全部で3,000人程いるとされている温泉むすめの世界でもトップレベルの3人が集まっているので、それぞれが尖っていてチームワークやまとまりに欠けるところがあったんです。それがあることがきっかけでユニット結成に至るのですが、そこで他のメンバー二人に誘われる形でいちばん最後に立ち上がったのが別府なんです。そのストーリーを体現したのが「暁のDiva」でして、この楽曲でAKATSUKIは誰がセンターを務めても遜色のないユニットであることを表現しているんです。

『Adhara 1st Live 〜SEIRIOS〜』

ーー楽曲ごとにバックボーンとなるストーリーがしっかりと用意されているのですね。Adharaの新曲「星に集いし乙女の物語-プロローグ-」「覚醒 sinfonia」も、今年5月に開催されたワンマンライブ『Adhara 1st Live 〜SEIRIOS〜』で初披露されましたが、こちらはどのような背景があるのですか?

橋本:ユニットの世界観を知ってもらえるようなものにしたくて、Adharaの単独ライブに合わせて用意した新曲になります。Adharaはシンフォニックメタルな曲調が音楽的な特徴でして、そのゴシックな世界観を表現したくて、ライブでは頭と終わりにクラシックの楽曲を用いたり、影絵による物語の上演を行ったりしたんですね。構成的にもドラマパートとライブを交互に行いまして、新曲もそのドラマのメイン役である「シリウス」という一等星にまつわるお話に合わせて作っていただきました。

 そこで描いた星の物語は、Adharaというユニットのコンセプトに関わっていまして、彼女たちの演じる役柄が、なぜAdharaがAdharaなのかという結成の理由とクロスオーバーするような、劇中劇という形になっていたんです。なぜAdharaのみんなは黒川姫楽(CV:田中美海)のもとに集まってきたのか、そして黒川姫楽はなぜ想いを持ってAdharaのセンターを務めているのか。その星の物語を盛り上げるための曲が今回の2曲になります。

ーーライブの構成もしっかりと計算されているのですね。

橋本:AKATSUKIのライブのときには冒頭で日本舞踊のプロの方に踊っていただきましたし、『温泉むすめ』は不思議なライブを行うとよく言われるのですが、やはりファンの方が楽しんでもらえるようなものにしたいんですね。『温泉むすめ』はこれだけのバックボーンがありながらも、ストーリーに触れられる機会が少ないのですが、ライブではドラマを含めて新しい情報を得られるので、それをライブに足を運んでいただける理由にしていただければと考えています。

【試聴動画】湯夢色(ゆめいろ)バトン「SPRiNGS」【温泉むすめ】

ーーまた、Adharaの新曲は2曲ともULTRA-PRISMのお二人が楽曲提供されていることも注目ポイントだと思います。どちらも幻想的なゴシックロックになっていますが、意外な抜擢でした。

橋本:ULTRA-PRISMさんは、それこそ最近は畑さんと一緒に活動されているので、そのご縁もあってご紹介いただきました。私も『侵略!イカ娘』(テレビ東京ほか)の大ファンだったので、あのオープニングテーマ(ULTRA-PRISM with イカ娘「侵略ノススメ☆」)を作った方であれば間違いないだろうと思いまして(笑)。

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