反田恭平×髙木竜馬×牛牛が織りなす『ピアノの森』の音楽世界 原作とリンクする圧巻の演奏を目撃
次なる主役は、ショパンコンクールの有力な優勝候補として描かれていたパン・ウェイのメインピアニストを務める同じ中国出身の牛牛(ニュウ・ニュウ)。2007年に弱冠10歳で世界的なレーベル<EMIクラシックス>(※当時)と契約して翌年CDデビュー。12歳でサントリーホールのリサイタルを成功させた神童も、米国ジュリアード音楽院を卒業して今や20代。2018年に名門<DECCAレコード>からリリースしたアルバムも好調だ。そんな牛牛が披露したのは、パン・ウェイが同コンクールの第1次予選で演奏した「エチュード ハ短調 作品10-12『革命』」と、同第2次予選で最初に弾いた「ポロネーズ 第5番 嬰ヘ短調 作品44」。「革命のエチュード」も有名曲だが、「ポロネーズ 第5番」は養父のもとで過酷な子ども時代を送ったパン・ウェイが、初めて阿字野の演奏をなぞって弾いた劇中の重要曲だけあって、会場は熱気に包まれた。
ここで再び反田恭平がステージに。「阿字野壮介ではなく、一ノ瀬海になったつもりで弾きます」と宣言した上で披露したのは、カイが第1次予選のラストに演奏した「プレリュード ニ短調 作品28-24」。ショパンがロシア軍に制圧されたポーランド国民の憤りをぶつけるかのように書いた壮絶な音楽を、劇中のカイさながらに鬼気迫る勢いで演奏する反田の様子に、会場も騒然。熱い興奮のなかで、コンサートの第1部は終了した。
休憩をはさんで、第2部には特別な趣向が登場。同コンクールのファイナルでは、ショパンが遺した2つのピアノ協奏曲のうち、どちらかを選んでオーケストラと演奏するのが慣わしであり、劇中でカイはショパンが20歳のときに作曲した大作「ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 作品11」を選んだ。
ここではそのピアノ協奏曲第1番を、第1楽章:牛牛、第2楽章:髙木竜馬、第3楽章:反田恭平と、3人のピアニストが楽章ごとに引き継いで完奏するというドリームプログラムが実施された。ピアノが登場するまでにオーケストラのみの演奏が4分も続く第1楽章、ロマンティックな第2楽章、祖国の民族舞踊をとりいれた躍動感溢れる第3楽章、異なった魅力を持つ各楽章がそれぞれのピアニストの個性によって、一段と輝く。ここまで来ると、もはやTVアニメの企画を超えた、スター演奏家による饗宴コンサートの域に到達。会場からはクラシックファンの嬉しい溜息が聞こえてくるようだった。ステージで共演したのがフルのオーケストラではなく、1stヴァイオリン4名、2ndヴァイオリン4名、ヴィオラ2名、チェロ2名、コントラバスからなる小編成のアンサンブルだったので、より親密で聴きやすい雰囲気だったのも良かった。
アンコールは反田恭平と髙木竜馬による「ラフマニノフ:2台ピアノのための組曲 第2番 作品17 第3曲 ロマンス」。阿字野のカムバックリサイタルのアンコールに登場したカイが、ピアノを2台くっつけて並べて師と共演した場面が、そっくりそのままステージで再現され、会場は最後まで大きな盛り上がりをみせた。
そして終演後、スクリーンには「2020年1月12日(日)追加コンサート決定!」の文字が。熱狂は来年まで続く、『ピアノの森』ピアノコンサートはまだ、終わらない。
(取材・文=東端哲也)