『Fantasia』リリースインタビュー

ALI PROJECT 宝野アリカが語る、『Fantasia』で描いたインディーズ時代にも通じる“創作の原点”

“自由”を肯定するアリプロ流の戀愛ソング

ーー「月下、緑雨幻想」は素敵な歌詞です。純粋に夢を見ることができた遠い日々への、強烈なノスタルジー。

宝野:〈いつでも戻りたかった/夢見た頃へと〉という歌詞があるでしょう? 「夢見る頃」という言い方があって、私は昔、八神純子が好きだったんですけど、「夢みる頃を過ぎても」という歌があったでしょう?

ーーありました。僕も大好きです。

宝野:あれを思い出して、YouTubeで聴いたりして。「夢見る頃」という言葉を入れたいなと思っていましたね。私が八神純子を聴いていた頃が、夢見る頃なわけじゃないですか。その頃には戻れないけど、ああいう気持ちは良かったな、ということを詞にしてみました。そこに「幻想庭園」も出して、「幻想庭園」には〈薔薇たちが見る夢の/ひとつひとつを数えながら〉という歌詞があったので、ここでは〈花のつぼみ/ひとつひとつ/数え過ごす〉という歌詞にしたんです。薔薇という言葉は強すぎるので、使いませんでしたけど。

ーー個人的に、6曲目「自由戀愛」(じゆうれんあい)が好きなんです。

宝野:私も好きです。これはたぶん、アルバムで最後に書いた曲ですね。片倉さんは、ロシアのコサックダンスのイメージで作ったとか言っているけど、ちょっとエスニックな感じ。この歌詞は、いい感じでできたんですよ。〈出会い頭に〉という出だしがふっと浮かんで、そこから広げていきました。「自由戀愛」というタイトルは途中で考えたんですけど、LGBTじゃないけど、そういう気分も入ってますね。〈オトコもオンナも関係なくて〉という歌詞は、そういう人が読めばそういうふうに思うだろうし、「自由戀愛」なわけだから。

ーーああー。そうか。それは今気づいた。

宝野:大正時代の自由戀愛ではなくて、今の自由戀愛。アリプロの周りには、LGBTの人が多いんですよね。私は戀愛には男も女も関係ないよねは思っているので、それを書いています。二番の最初の〈変われなかった/行き場ひとり迷い〉のところは、みんなと同じ道を歩いていても、自分はどうしてもつまづいてしまう。それはLGBTかもしれないし、性格的なことかもしれないし、でもそれを恐れず、太陽の下に出て自分をさらす、そして自由でいようということです。アリプロの戀愛ソング、珍しいですよね。いろんな意味に取っていただければと思います。

ーーそうですね。

宝野:軽快な曲だし、間奏でインガ(・ペルセフォネー)さんが踊るのが目に浮かびます(笑)。

ーーアリカさん、ちょっと珍しい歌い方してますよね。歌謡曲というか、演歌まではいかないけれど、コブシのような。

宝野:そうそう。コブシというか、うなりですね。うなり、難しい! もう何十年も練習しているんですけど、できないんですよ。でも今回はメロディの譜割がうまくいって、うまくうなれました(笑)。昭和歌謡っぽい曲だから、こういうのが楽しいんですよね。本当は、青江三奈みたいな声で歌いたいんですけど、私には無理なので(笑)。でもこの曲はいいと思うし、別にアリプロが好きじゃなくても、聴いたら「お!」っとなると思う。

ーー「少女のための残酷童話」にも、過去の童話のタイトルがたくさん出てくる。〈赤い靴〉〈家なき子〉〈マッチ売りの少女〉、そしてギリシャ神話の〈ナルシス〉。

宝野:「少女のための残酷童話」というタイトルは、倉橋由美子さんの本に『老人のための残酷童話』『大人のための残酷童話』という作品があるんですよ。そこから取りました。倉橋由美子さんが好きで、毎年読み返しているんです。

ーー「少女もいつか老いていくのよ」と。それが一番残酷といえば残酷なファンタジーですよね。

宝野:そうですね。でも実は、「BArADiPArADicA」も似たようなテーマの曲で、老いてはいかないけれど、〈また逢いましょう/少女のわたし〉という、女の子が未来へ向かって進んでいくんです。そういうテーマ、アリプロには多いですね。

ーー「恐怖の頭脳改革」はEL&P……ではなくて(笑)。「狼少年」の変奏曲のようなお話。オチを言ってしまうと、狼が狙っているのは羊ではなく人間で、狼少年が警告したにも関わらず、村人は一人残らず食べられてしまう。

宝野:原作では羊が食べられちゃいますけど、ここでは羊を助けて、人間がいなくなる。それこそ本当に平和じゃないですか。地球には人間がいないのが一番平和ですよ、ということです。

ーーそうなのかもしれない……とは思います。そんなことを、こんなに明るい曲調でポップに歌っちゃう。これぞアリプロのファンタジー。

宝野:〈人も羊、群れをなし/同じ平和に慣れていく/危険なんて絵空事〉と書いていますけど、実際、危険な状況になってみないとわからないし、絶対そんなことは起きないと思っても起きてしまう。怖いですね。それで、愚かな村人は食べられてしまう。

ーーもはや現実ですね。2019年の世界の。美しいバラードの「地球(テラ)で」にも、そういう警告めいたメッセージは入っているような気がします。今この世界のどこかに、まったく違う社会や政治の下で、悩み苦しむ同胞がいるんだと。

宝野:ああ、そうですね。これも片倉さんが、私たちにとって自由は普通に当たり前にあるものだけど、自由がない国に生まれた子どももいるわけで、「自由の大切さを歌いたい」というようなことを言っていて、それで書いた曲です。自由がないとどれだけ辛いだろうと思います。同じ地球に住んでいるのに。

ーーそしてアルバムの最後を飾るのが、ジャズのスタンダード、ビル・エバンス「WALTZ FOR DEBBY」の素敵な日本語カバーです。

宝野:最初から、片倉さんがこの曲をやると決めていました。「なぜ『WALTZ FOR DEBBY』?」と思いましたけど。結果的に良かったです。

ーー何か理由があったんですかね。

宝野:どうなんでしょう? 詳しく聞いていないですけど、自分が聴きたかったんじゃないのかな? 好きな曲を。「WALTZ FOR DEBBY」は、日本でも誰かがカバーしていて、日本語詞があるんですけど、今回は英語の歌詞を参考にしながら私が書きました。直訳ではなくて、『Fantasia』にのっとった歌詞を付けました。メロディも美しいし、メロディも伸びやかで、楽しく歌えました。

ーーオチが怖い曲もありますが。全体的には美しく、穏やかに眠れるようなアルバムになったのではないか? と。

宝野:いい夢が見られるような。自分の中で、前回とは作り方が違う気はします。前回は、もっと曲がきらびやかに感じたんですね。聴いているだけで自然に物語が浮かぶような感じで、けっこう濃密な歌詞が多かったと思うんですけど、今回は、私が好きなきらびやかさとは違う、優しい感じというか、それで歌詞を書くのが難しかったのかもしれない。曲の感じが違うから、聴いたイメージも違うんでしょうね。聴きやすいというか、初心者向け?

ーーそういう面はありますね。そこから深く入る人は、歌詞の裏側を掘ってもらえば。

宝野:深さが余計に目立つような気がします。

ーーどういうふうに聴かれると、いいと思いますか。

宝野:普遍的なファンタジーが詰まった作品ではないかな? と 思っているので、物語を読むように聴いていただければと思います。アリプロを聴いたことのない方も、聴いてみたら、好きになるかもと思うんですよね。入りやすいアルバムだと思うので。1曲でも「あれ?」と思ったら、ぜひ聴いてみていただきたいですね。未体験の方は、まずはトレーラーをお聴きくださいませ(笑)。

(取材・文=宮本英夫)

■リリース情報
『Fantasia』(ファンタジア)
発売日:2019年8月28日(水)

初回限定盤:¥3,889(税抜)2枚組CD
[CD1]全10曲収録(オリジナル新曲)
[CD2]朗読劇(ドラマCD)

[Disc1]全10曲収録
1 BArADiPArADicA(バラディパラディカ)
2 21世紀新青年
3 リアル×ファンタジー 
4 Maison de Bonbonnière 
5 月下、緑雨幻想 
6 自由戀愛
7 少女のための残酷童話 
8 恐怖の頭脳改革
9 地球(テラ)で  
10 ゆりかご(instrument)

[Disc2]
〈ファンタジア朗読劇場〉
“薔薇美と百合寧の不思議なホテル”より
「赤い靴と秘密の呪文」

通常盤:¥2,870(税抜)1CD
全11曲収録(初回盤同様10曲+カバー曲)

<収録曲>
1 BArADiPArADicA(バラディパラディカ)
2 21世紀新青年
3 リアル×ファンタジー
4 Maison de Bonbonnière
5 月下、緑雨幻想
6 自由戀愛
7 少女のための残酷童話
8 恐怖の頭脳改革
9 地球(テラ)で
10 ゆりかご(instrument)
11 WALTZ FOR DEBBY

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