作詞家 zoppに聞く、理想的な“雨ソング”の特徴 「情景と主人公の心情をリンクさせる」

作詞家 zoppに聞く、理想的な雨ソングの特徴

 修二と彰「青春アミーゴ」や、山下智久「抱いてセニョリータ」など、数々のヒット曲を手掛ける作詞家・zopp。彼は作詞家や小説家として活躍しながら、自ら『作詞クラブ』を主宰し、未来のヒットメイカーを育成している。これまでの本連載では、比喩表現、英詞と日本詞、歌詞の物語性、ワードアドバイザーとしての役割などについて、同氏の作品や著名アーティストの代表曲をピックアップし、存分に語ってもらってきた。

 第22回目となる今回は、zopp氏が出演した6月16日放送『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)のテーマだった“雨ソング”についてインタビュー。雨を用いた歌詞のポイントや、印象に残っている雨ソングの特徴などじっくりと聞いた。(編集部)

『関ジャム 完全燃SHOW』雨ソングベスト10

1位:徳永英明「レイニーブルー」(1986年)
2位:DREAMS COME TRUE「晴れたらいいね」(1992年)
3位:ASKA「はじまりはいつも雨」(1991年)
4位:ゆず「雨のち晴レルヤ」(2013年)
5位:サザンオールスターズ「TSUNAMI」(2000年)
6位:ジーン・ケリー「雨に唄えば(Singin’ In The Rain)」(1952年)
7位:森高千里「雨」(1990年)
8位:八神純子「みずいろの雨」(1978年)
9位:小泉今日子「優しい雨」(1993年)
10位:RCサクセション「雨あがりの夜空に」(1980年)

「雨を降らせたからには止ませる」というのはわかりやすいエンターテインメント

ーー『関ジャム 完全燃SHOW』で発表された雨ソングランキングを見ていると、雨を用いた楽曲にはラブソングが多いですね。雨そのものが好きな相手を連想させるのでしょうか。

zopp:雨が降ると相手が近い存在になるんです。例えば、傘に雨が当たるとうるさくて声が聞こえづらくなりますよね。そうすると会話が伝わりづらくなります。伝えたくてもうまく伝えられないもどかしさを演出してくれるんです。雨は音を鳴らすものなので、歌詞に用いる時は音とちゃんとリンクさせることが大事だと思います。あとは、カップルが1つの傘に入ることで自然と距離が近くなりますよね。好きな人が近い距離にいるというドキドキ感は、より印象に残りやすいですよね。

ーーテゴマスの「アイアイ傘」も、相合傘をしている主人公のもどかしい心情が描かれています。

zopp:僕は歌詞を作る上で3つの要素を大事にしています。それは「共感」「教訓」「憧れ」です。「共感」に重点をおいた歌詞であれば多くの人が体験したことがある内容にし、「教訓」であれば恋愛が上手くいく方法を物語を通して伝え、「憧れ」であれば実際には体験できないシチュエーションを歌詞にして聴き手に疑似体験してもらえるようにしています。雨を降らせることによって、そうした演出がしやすくなるように思います。特にもどかしさや別れを表現する際には「傘をささずに雨に濡れたまま帰った」とすることで“どうでもよくなった”心情を象徴的に描くことができます。直接的に言葉にしなくても情景で主人公の感情を代弁することができるんです。登場人物の感情を情景を通して表現している歌詞に美しさを感じます。

ーー〈通りすぎる雨がせかしてる〉というフレーズも、主人公の心情が情景に表れているかのようですよね。

zopp:そうなんです。雨が止みそうになることで、同時に何かの終わりを表すことができます。こうした擬人法は作詞のひとつのテクニックですね。

ーー雨ソングで印象に残っている歌詞はありますか?

zopp:KinKi Kidsの「硝子の少年」の冒頭〈雨が踊るバス・ストップ〉です。これは、おそらく水たまりに雨が跳ねている様子を映し出しているのでしょう。すごく良い歌詞ですよね。またこの曲のポイントは、最後にちゃんと晴れている情景を描いていることです。最初に雨が降って、最後に〈雲が切れてぼくを/照らし出す〉という歌詞に繋がる。最後のサビで主人公に救いを与えているんです。

ーー伏線がしっかり回収されているんですね。

zopp:雨を用いた楽曲のなかでも、この曲の表現方法は理想的です。雨を止ませることでコントラストがはっきりしますよね。「雨を降らせたからには止ませる」というのはわかりやすいエンターテインメントだと思うんです。僕が“雨”を歌詞に取り入れる際には、雨を通して誰かが泣いている様子を表現したり、雨が止んだことで主人公をポジティブに見せたり……情景と主人公の心情をリンクさせるようにしています。

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