米ビルボード ソングライター&プロデューサーチャートから読み解く、現代の音楽制作のあり方

 チャートから読み取れる制作現場の現状が、2点ほど指摘できるかと思う。第一に「ソングライティングとプロデュースの兼任」、第二に「サンプリングされたミュージシャンのクレジット」だ。

 前者はフィニアス・オコンネルやルイス・ベル、ジョエル・リトルとテイラー・スウィフトなどの例に顕著だ。そもそも、作詞や作曲を指す「ソングライティング」とアレンジやサウンド寄りの「プロデュース」の境界はいまとてもゆるやかだ。もちろんクレジットの詳細を見れば「どのような役割を担ったか」が明記されてはいるのだが、コライティングを含めた分業とコラボレーションの発展によって、メインのソングライターがプロデュースにも関わる例は多い。

 その点、ビートメイクとラップが明確にわかれていることが多いヒップホップではこういう事態がやや起きづらいものと思われる。ソングライターのチャートで上位に登場するJ・コールがプロデューサーのチャートに登場しないのは象徴的だ。ラップのライティングのみがクレジットされているためだろう。

 後者は、サンプリングという技法が音楽産業のなかでどのように処理されているかの例と言える。有名なエピソードだが、「Old Town Road」及びそのリミックスには、トレント・レズナー率いるNine Inch Nailsの楽曲「34 Ghosts IV」がサンプリングされている。コード進行を示してメロディを支える、印象的なバンジョーのリフがそれだ。サンプリングした側が原曲のクレジットを示す必要があるため、ロスとレズナーの双方がソングライター兼プロデューサーとして一連の「Old Town Road」関連楽曲に名前を連ねることになる。

 このように、ひとくちにソングライターやプロデューサーのランキングといっても、流動化する分業制や、ジャンル間の制作スタイルの差異、現代的なテクニックがもたらす権利処理の問題を前提においたほうがよい。その向こうにはじめて、個々のソングライターやプロデューサーの個性が浮かび上がってくるからだ。今後チャートが蓄積されていけば、より興味深い事実が捉えられるかもしれない。

■imdkm
ブロガー。1989年生まれ。山形の片隅で音楽について調べたり考えたりするのを趣味とする。
ブログ「ただの風邪。」

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる