アニメ『けいおん!』が与えた影響とは何だったのか 放送10周年を機に改めて考察
3.アニソン・アニメシーンへの影響
00年代のアニソンシーン/声優シーンを見直したとき、2005年〜2008年は、今につながる「うねり」の最初の時期にあたると言えよう。
2005年に『魔法先生ネギま!』の主題歌「ハッピー☆マテリアル」がヒットしたことをきっかけに、『涼宮ハルヒの憂鬱』のテーマ曲「冒険でしょでしょ?」「ハレ晴レユカイ」、『らき☆すた』のテーマ曲「もってけ!セーラーふく」が注目されたほか、『マクロスF』ではMay'nと中島愛が、『天元突破グレンラガン』では中川翔子が主題歌や挿入歌を務めたことで話題となった。また、水樹奈々、坂本真綾、田村ゆかりが大きな支持を得始め、アリーナやホールツアーを行ない始めたのも2005年~2008年の3年間に集中しており、加えてアニソンシーンの一大イベントであるアニサマが初開催されたのも2005年だ。
「ハッピー☆マテリアル」のヒットは、ネット上での祭りのような側面があった(参考)が、翌年以降の流れは、炎上商法的なヒットではなく、一つの「音楽ジャンル」としての認識されていった創世期だったともいえる。このあたりは、より精査をもって後に書かれるべき点ではないかと筆者自身も考えている。
では、そういった2000年代から2010年代をまたぐ時期にあって、なぜ『けいおん!』は日本のアニメシーンにおいても一目を置かれる存在になったのだろうか。
それは、アニソンシーンにおけるキャラクターソングの充実と、関連イベントにおける「音楽」の重要視を先んじていたということにある。
例えば、さいたまスーパーアリーナでのイベント『けいおん!! ライブイベント 〜Come with Me!!〜』は、これまで発売されてきた主題歌、挿入歌、キャラクターソングのライブパートにくわえ、朗読劇とキャストトークも含まれているという充実よう。アリーナクラスでこうしたアニメイベントを開催できたのは、『けいおん!』が音楽を重要視し、豊富なキャラクターソングと作品性を揃えていた作品だったからだろう。
その後、2010年代のアニメシーンにおいて、キャラクターソングが大量に発表されるという流れへと繋がっている。アニメ、マンガ、ゲーム作品を起点にしたビジネスは多岐に渡るが、キャラクターソングの制作と販売は、作品への理解力あげるものとしてファンへの訴求性をもったコンテンツへと変わったのだ。
もちろん、すべての作品にキャラクターソングがあるというわけはない。だが、アニメ作品に関しては、劇中歌/劇伴などに加え、キャラクターソングの制作と販売によってアニメ自体により大きな注目が集められる。こういった2010年代における「キャラクターソング増大の潮流」は「声優が歌を唄う」というシーンをより増加させ、「声優がシンガーとしてデビューする」という流れへと繋がっていく。これは今回の記事とはまた別の流れなので、省いておきたい。
最後に、『けいおん!』がアニメシーンでヒットする作風を変えたことにもふれておきたい。もともと今作は芳文社の『まんがタイムきらら』関連誌で連載されていた作品だった。そして今作のヒットを皮切りに、先駆者である『ひだまりスケッチ』のほか、『ご注文はうさぎですか?』、『きんいろモザイク』、『がっこうぐらし!』、『NEW GAME!』、『ゆるキャン△』といった同関連誌の日常系4コマ作品が次々にアニメ化。さらには、『まんがタイムきらら』に関連したスマートフォンゲーム『きららファンタジア』がリリースされるほどだ。日常系と称される作品群と作風は、約10年以上の潮流が流れ、一つのジャンルとして認識されたといってもいいだろう。
もしも『けいおん!』がなければ、こういった作品群が大きく支持され、またアニソンシーンのトレンドは大きく変わらなかったのかもしれない。
■草野虹
福島、いわき、ロックの育ち。『Belong Media』『MEETIA』や音楽ブログなど、様々な音楽サイトに書き手/投稿者として参加、現在はインディーミュージックサイトのindiegrabにインタビュアーとして参画中。
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