森山直太朗がたどり着いた新たな境地 柴那典による『人間の森』評
5月26日にWOWOWで放映された「森山直太朗『人間の森』ドキュメンタリー」は、インタビューや舞台裏への密着を通してそうしたコンサートツアーのエッセンスを切り取った、とても興味深い映像作品となっていた。
その冒頭で、森山直太朗はこう告げている。
「ラストスパートに入った今でも、『人間の森』とは何なのか、そして、このツアーが今後僕をどこに連れていってくれるのか、いまだわからないままです」
番組の中でも、たびたび森山直太朗は、そしてメンバーたちは「わからない」と繰り返す。
そうした半年にわたる旅を経て、たどり着いたのが6月2日のNHKホールのファイナル公演だった。
観客席まで森山直太朗が降りて歌ったり、ツアー直前にできたという新曲「すぐそこにnew days」では即興の掛け合いがあったり、様々な瞬間を経た本編は「群青」で終了。アンコールに「さくら(独唱)」と「時代は変わる」を歌った森山直太朗は、「もう1曲やらない?」とメンバーを呼び戻す。そうして「どこもかしこも駐車場」を歌う前に、彼はこんな風に告げた。
「ツアーが始まったときは『人間の森』を“おっかない場所だな”と思っていたんだけど、今はふるさとみたいな場所になりました。この先、迷ったり、息詰まったときは、『人間の森』を思い出します」
メンバー全員が舞台を降り、客席の照明が付いた後も、拍手が鳴り止むことはなかった。再びステージに登場した森山直太朗が最後に弾き語りで「君は五番目の季節」を歌い上げ、ライブは終了。
おそらく、あの場に居た人は感じ取っていただろう。言葉にするのは、なかなか難しい。でも、そこには歌い手として、表現者として、森山直太朗がたどり着いた新たな境地がたしかにあった。最後に巻き起こった大きな歓声は、そこへの賞賛でもあったのだろうと思う。
■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」/Twitter