『トワイライト』インタビュー

スカート 澤部渡が考える、ポップミュージックの宿命と醍醐味「いつか打順が回ってくるといい」

「花束にかえて」「トワイライト」を完成させた手応え

――6曲目の「高田馬場で乗り換えて」は、もともと「DJ MARUKOME & スカート feat. tofubeats」名義で発表された楽曲です。オリジナルのトラックはtofubeatsさんですよね?

澤部:そうです、ギターと歌以外は全部トーフくん。実は、トーフくんバージョンとスカートバージョンの制作を同時に走らせたんです。だから、トーフくんにはバンドのアレンジを聴かせていないし、バンドメンバーにはトーフくんのアレンジを聴かせてないんですよ。

――両方ができて聴いたときの違いはどう受け止めました?

澤部:もちろん楽器が違いますから、そういう大枠の話はあるにせよ実はそんなに違いはないと思いましたね。「ああしたい、こうしたい」という自分のイメージをそれぞれに伝えていたので、どっちも地続きの世界観になっているんです。バンド版は「かたまり感」ですかね。ニュアンス的な部分については、トーフくんのほうが出てるかな。でも、「トーフくんがこう来たから、こっちに行こう」とか、そういうことはまったく考えませんでした。その曲のことだけを考えて一番いいものにするって感じですね。

――スカートは相対的にサウンドを作るんじゃなくて、自分達の絶対評価みたいなものを見つけ出そうとしている雰囲気がありますよね。

澤部:そうなんですかね? でも、もしスカートの音楽に絶対的なものがあるとしたら、自分が歌とギターでやっても成り立つものなんじゃないかなと。だから、今回も初回限定盤に弾き語り盤(『トワイライトひとりぼっち』)を付けられたし。バンドの人が弾き語りをやると、人によっては、バンドの演奏にドラムとベースとギターがないだけみたいな印象の人もいるんですけど、自分の気持ちとしてはそうじゃないんですよ。

――スカートの場合は、バンド編成だろうと澤部さんの弾き語りだろうと、どっちも100%って感じですよね。なんでそうなると思います?

澤部:全然わかんないんですよ。たぶん僕は、パラダイス・ガラージを聴いてたからじゃないかなって。

――それはすごく説得力がありますね。

澤部:そうそうそう。特に「SING A SONG」とか聴いてると、あれが100%だっていうのを理解できるので、そこがでかいと僕は思いますね。

――7曲目の「ハローと言いたい」は、〈ハローハロー〉と歌うところが冴えわたったメロディです。

澤部:そうなんですよ。いい曲だし、本当に僕も気に入ってるんですけど、ライブだと少しやりづらいなとも思う。

――盛りあがりづらいとか?

澤部:そうそうそう、盛りあがりづらいかもな、って今は思いますね。でも、〈ハローハロー〉の後のちょっと4/4じゃなくて2/4になるところとか、そういうのも好きですしね。アクセントが急に変わるんですよ。譜面の上では4/4を2回だけどニュアンスとしては3/4と5/4の組み合わせになるところとかもあって。

――スカートはそういうリズムの試行錯誤はしつつ、変拍子で1曲作ることはやらないですね。

澤部:自然にできるものが多いので、もし変拍子になったとしてもそれが自然なことが多いんです。「変拍子やろう!」という気持ちであえて作ることはしたくないんですよね。

――8曲目の「それぞれの悪路」のギターのリフは、J-POP、いわゆるメインストリームにあるようでない感覚でした。

澤部:シンプルですからね。もしかしたらJ-POP以前、ニューミュージック以前のものだったりするんだろうなっていう気は、今言われてしました。下手したら70年以前かもしれない。この曲だけ自分とシマダボーイだけで録音したんですよ。ドラムもベースも自分で弾いて。シマダボーイのパーカッションって、外に向けるために使うことが多いですけど、この曲は「パーカッションで内向きにしてくれ、派手になるんじゃなくて感情の揺れ方を助けるようなものにしたい」というリクエストをしましたね。

――9曲目は、「君がいるなら」のカップリングだった「花束にかえて」。憂いもあれば開放感もあるメロディで、このソングライティングはさすが澤部渡だなと思いました。

澤部:僕もそう思います(笑)。この曲ができたときはすごく満足感があったんですよ。1曲の中で視点やシーンがどんどん切り替わるような手応えがありました。一番漫画的な曲で、昔からやりたかったことをこの曲や「トワイライト」でできたっていう自信がありましたね。

――その10曲目の「トワイライト」は、コーラスが空気公団の山崎ゆかりさん。タイトル曲に持ってきたのは手応えが大きかったからですか?

澤部:大きかったですね。今までの自分には書けなかった曲も書けたし、今までやってきたことを反映した詞もかけたっていう手応えが自分の中ではありました。「君がいるなら」とか「遠い春」とか、シングル曲が自分なりに派手で外向きにできたっていう手応えの先に、「トワイライト」のような曲ができたっていうのが、自分の中のストーリーでは一番美しかったんですよ。「ずっとつづく」がリード曲だから、アルバムのタイトルにしようかっていう話もあったんですけど、自分の中ではどうしても座りが悪かった。迷った挙句にアルバムタイトルを『トワイライト』にしたんです。スカートっていうどこにでもあるような言葉の、どこにでもあるような編成のポップバンドが、この言葉を使って「新しいアルバムです」って言うのはとても良い、理にかなってると思いました(笑)。「トワイライト」って、聞き覚えのある言葉なんだけど日常生活で使わない言葉で、それがいいですよね。

――この楽曲での管楽器は在日ファンクの村上基さんですか?

澤部:そうですそうです。間奏のフレーズは自分の指定なんですけど、それ以降は(佐藤)優介が書いてくれました。自分の範疇を超えた曲だなって思って、優介に5人で演奏したものに対して「何が足りないと思う?」って聞いたんですよ。「オブリのギターを入れたらいいんじゃないか? 先輩たまには本気だしてくださいよ」って言われて(笑)。僕、オブリのギターが苦手なんですよ。だから今までずっと弾いてなかったんですけど、ついに入れましたね。

――最後は「四月のばらの歌のこと」。管楽器はゴンドウトモヒコさんですね。「あの娘が暮らす街(まであとどれくらい?)」から「四月のばらの歌のこと」までの流れは、アルバムのトーンとしてものすごく筋が通っていますよね。さっきの澤部さんの言葉で言えば、理にかなっている。

澤部:そう言ってもらえるとすごく嬉しいです。

ポップスとして強度の高いものを作っている自負はある

――『トワイライト』は不思議なアルバムで、2019年のレコードではない感じもあるし、でも2019年の音楽の手触りがあります。そして、J-POPのど真ん中にいつか踏みこまなきゃいけないという意志も伝わってくる。今、J-POPのど真ん中との距離感ってどんなものだと思いますか?

澤部:僕としては機をうかがっている感じがあって。いつかこっち側に風が吹くときが来るんじゃないかって……思いたい……。

――なんで急に弱気になるんですか(笑)。

澤部:自分としては、J-POPかどうかはわからないにしても、ポップスとして強度の高いものを作っている自負はあるので、いつか打順が回ってくるといいな、と。でも本当にいいレコードができたと思うんですよ。マニアックな要素は入れてますけど、全体の立ち姿はポピュラーなつもりで作ってますし。じゃあ、はたして今アルバムっていうフォーマットがポピュラーなのかっていう話ですよね。スタジオでは「あぁ、もうなんて素晴らしい! また良いレコードだ」って思うんですよ。「よく作れるなぁ、自分は」って。

――澤部さんは昔からそういうところがありますよね。「傑作を作っちゃったどうしよう! でも、できあがってみたらこれでいいんだろうか?」みたいな。

澤部:そうそうそう。こうやって世に出している段階で、どうやっても自分の中では傑作なんですけど。

――スカートを続けるモチベーションって、ポピュラーで普遍的なものを作りたいという気持ちが大きいと思うんですけど、実際にそういう音楽を作れる人って今なかなかいないと思うんです。

澤部:まぁ、それも必要とされてないからなんじゃないかっていうね……。

――なんでまた弱気になるんですか(笑)。

澤部:作り終わった後なので、ちょっとナーバスなんです(笑)。こういう音楽をやってる人があまりいないのも、そこに需要がないからなんじゃないかって思ったりしてしまうというか。

――最終的に求めるものって、多くの人に届くことなんですよね?

澤部:うーん……そうありたいとは思いますよ。マニアックな気持ちも同居しつつ、そうじゃない方向に行くのがポップミュージックの醍醐味でもあると思うので、常にそういう風になるように願っているし、だからこそ、ポニーキャニオンさんのお力を借りて、こうやってレコードを作って世に問うこともしてます。やっぱり聴いてもらって、こういう音楽を聴く人が増えたらどんなに世の中が良くなるかみたいなことを考えますね。「戦争に反対する唯一の手段は。」っていう話になりますけど。

――吉田健一ですね(ピチカート・ファイヴの小西康陽が度々引用したことで知られる英文学者の言葉)。多くの人に届くべきものを作っているはずだと。

澤部:……そうですね。

――今、一瞬の間があったのはなぜ?

澤部:……そう言い切れるものなのか?

――以前、言い切ってませんでしたか?

澤部:そういう気持ちでは常にいます。ただ、マスタリングが終わって数日後の状況でそう言い切れるかはまた別かなって(笑)。自分の中で迷いがないと言ったら嘘になるし、常にそういう目で見てる自分はいますよ。

――もしかして、すでに次のアルバムのことを考えたりしていますか?

澤部:いや全然です。でも、前ほど「やりきった!」みたいな感じはないんですよ。やっぱりシングルを積み重ねて体力が付いたというのもあると思うんですけど、「次はこういうことをやりたい」というイメージが頭の中にうっすらあるというのも珍しくて。

――ある種の余裕ができたのかもしれませんね。

澤部:でも、だからと言って、すぐ次のアルバムを作りたいわけではないんです、大変だから(笑)。ちょっとゆっくり曲を書きたいですね。

(取材・文=宗像明将)

スカート Major 2nd Album "トワイライト" ダイジェスト・トレーラー

■リリース情報
『トワイライト』
6月19日(水)発売
初回限定盤(2CD)¥3,456(税込)
通常盤(CDのみ)¥2,808(税込)

<収録内容>
M1.あの娘が暮らす街(まであとどれくらい?)
M2.ずっとつづく
M3.君がいるなら(映画『そらのレストラン』主題歌)
M4.沈黙
M5.遠い春(映画『高崎グラフィティ。』主題歌)
M6.高田馬場で乗り換えて
M7.ハローと言いたい
M8.それぞれの悪路
M9.花束にかえて(映画「そらのレストラン」挿入歌)
M10.トワイライト
M11.四月のばらの歌のこと

<特典CD 収録内容>※初回限定盤のみ
「トワイライトひとりぼっち」
収録楽曲全11曲の弾き語り音源を収録

<CDショップ購入者特典>
タワーレコード購入者限定特典:「スカート カバー音源集"SINGS #C 」収録曲:君は1000%
その他CDショップ購入者限定特典:「スカート カバー音源集"SINGS #D 」収録曲:ベルベット・イースター

■インストアライブ情報
<東京>
6月19日(水)21:00~
ココナッツディスク吉祥寺店  
内容:弾き語りライブ、手形記念色紙お渡し会

6月22日(土)15:00~
タワーレコード新宿店 7F イベントスペース
内容:弾き語りライブ、サイン会

<北海道>
6月27日(木)19:00~
タワーレコードピヴォ札幌店 イベントスペース
内容:弾き語りライブ、サイン会

<大阪>
7月3日(水)19:30~
HMV&BOOKS SHINSAIBASHI
内容:弾き語りライブ、サイン会

<愛知>
7月4日(木)19:30~
HMV栄 
内容:弾き語りライブ、サイン会

<福岡>
New Cultural Experience with スカート
7月8日(月)18:00〜21:00(OPEN18:00~)
manucoffee roasters クジラ店
LIVE:スカート(19:30~)
DJ:EDANI WCKMNN
料金:無料(要1ドリンクオーダー)

『トワイライト』特設サイト

 

■ライブ情報
『スカートMajor 2nd Albumリリースツアー』
6月28日(金)北海道・札幌BESSIE HALL
OPEN18:30/START19:30
ゲスト:台風クラブ

7月5日(金)愛知・名古屋CLUB QUATTRO
OPEN18:30/START19:30
ゲスト:グッドラックヘイワ

7月6日(土)大阪・梅田CLUB QUATTRO
OPEN17:00/START18:00
ゲスト:グッドラックヘイワ

7月19日(金)東京・渋谷CLUB QUATTRO
OPEN18:30/START19:30
ゲスト:Helsinki Lambda Club
DJ:TBA

<チケット料金>(D代別)
一般¥3,800/学生¥2,000
※学生チケットは入場時、学生証を提示。学生証のない場合、追加で1800円支払い。
※中学生以上チケット必要、小学生以下は保護者1名につき1名同伴可能。

チケット一般発売中

ツアー詳細はスカートオフィシャルHPカクバリズムHPにて

■関連リンク
スカートHP
スカートオフィシャルTwitter

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