黒崎真音×ZAQが語る、アニソン歌手としての危機感とサバイブ術「ギリギリのところで戦ってる」

“アニソンシンガーらしさ”と“私らしさ”

ーーであれば、その苦労もちゃんと報われるべきではありますね。

黒崎:私が着ている服や髪型がこういう感じだから、そうは見てもらえないのかもしれないんですけど、苦労してなさそうに見えるのはけっこうコンプレックスではありますね。行きつけの居酒屋さんがあるんですけど、そこの店員さんや常連さんには「姫」って呼ばれちゃうし(笑)。「そういうふうに見えるんだろうな」と思う半面、私の苦労が透けて見えていないことが切なくもあるんです。

ZAQ:私、思わず真音さんのコンプレックスと、知られざるあだ名を暴いちゃいました?(笑)。

ーーはい(笑)。

黒崎:でもそのコンプレックスの反動というか、苦労していた頃の自分を塗り替えたい自分もいるんですよ。おしゃれしたり、髪を染めたり、メイクを研究したりするのは全部、あの頃の自分ではなく、私の思う黒崎真音になりたいからなんです。

ZAQ:名言いただきましたっ!

黒崎:半ばZAQちゃんに言わされたんだけどね(笑)。

ZAQ:私もそうですから。ZAQになりたいんです。それこそさっきの真音さんじゃないけど「天才」って言ってくださる方や「なんでもできる」って言ってくださる方もいらっしゃるし、それはありがたいんですけど、私自身は天才に憧れている普通の人だと思っていて。もっとすごくて面白いミュージシャンなんてホントにいっぱいいますから。それこそ真音さんを筆頭に。だからそういう皆さんとはまた違った形の天才……「なんでもできる天才」とおっしゃっていただけるんであれば、そういうZAQ像に少しでも近付きたいな、とは思ってます。

ーーZAQさんは黒崎さんのニューアルバム『Beloved One』は……。

ZAQ:聴かせていただきましたっ!

ーー率直に言って、いかがでした?

ZAQ:これは今回に限った話ではないんですけど、真音さんってどんなメロディでも、どんなリズムでも歌えちゃう人なんですよ。それを再確認させてもらいました。このアルバムで言うなら「僕だけが世界から消えても」の頭サビって私なら絶対に上手く入れないと思いますし。

黒崎:ああ、確かに変わったメロディだし、リズムも面白いよね。

ZAQ:だから、その変わってて面白い頭サビを歌いこなせる黒崎真音の実力よ、っていう感じなんですよね。

黒崎:いやいやいや(笑)。あんまり深く考えないから歌えるんだよ。知識がないことが逆にいい感じに働いてくれてる感じ。

ZAQ:ということは耳がいいんですよ。ちゃんとメロディやリズムを聴き分けて、それに寄り添うことができるってことですから。天性の感覚で音楽的に理解度の高いパフォーマンスを発揮するからカッコいいんですよね。あとこのアルバムって全体的には真音さんらしいゴリゴリのサウンドが多いんだけど、「peko peko peach♡」みたいなかわいいハウスもあるし、あとシャッフルっぽいリズムのスローロックの曲ってどれでしたっけ?

黒崎:「A.I.D」かな?

ZAQ:そうだそうだ。この曲、メッチャ好きです。「こういう大きくうねるグルーヴの曲も歌いこなせる真音さん、スゴいなー」って感じがして。

黒崎:でも「A.I.D」って「ゾンビに噛まれて毒が浸食したから、私もゾンビになっちゃった」「早く殺して」っていう曲なんだけどね(笑)。

ZAQ:その歌詞とのマッチングも面白かったし。

黒崎:なんか『Beloved One』を作ってるときってちょっと悩んでたのか、歌詞がとにかくヤバいんだよね(笑)。

ZAQ:でも「悩んでる」「ヤバい」ってストレートに歌うんじゃなくて、その精神状態をゾンビになぞらえてるのがやっぱり面白いし、「Renka.」みたいなドラマチックなバラードもあって。真音さんがすごいストーリーテラーに見えたんですよね。それでいてアルバムに入ってるタイアップ曲をあらためて聴き直すと、どの曲もちゃんとアニメの世界観に沿っているし。作詞家としての真音さんの実力も見せつけられました。

ーーそのアニメタイアップについて伺いたいんですけど、最初おふたりは「私たちは楽曲を通じて自分に代表されるなにかと戦っている」とおっしゃっていました。

黒崎・ZAQ:はい。

ーーでも、それぞれ主題歌を担当するアニメが違う上に、楽曲はそのアニメのイントロダクションやアウトロとしても機能させなければならない。ちゃんとアニメに寄り添いつつも、なにかに抗う私を表現するテクニックって具体的には?

黒崎:アニソンシンガーである以上、自分でテーマソングを担当するアニメを選ぶことって絶対にできないじゃないですか。「このアニメのテーマソングを歌ってください」「このアニメの主題歌の歌詞を書いてください」っていうオーダーがあって、はじめて動き出せるんです。でも以前にもお話したとおり、それがどんなアニメ作品であれ「あっ、このキャラクターの気持ちすごいわかる」「このシチュエーション、私にもあったかも」っていう出会いが必ずあるんです。そういうインスピレーションを受けるとアニメ作品らしくもあり、私らしくもある歌詞や歌い方に出会えるんですよね。

ZAQ:そうだと思います。私も真音さんもアニソンシンガーになりたくて今のキャリアをスタートしているから、アニメに対する愛の量や方向性がたぶん一緒なんですよね。黒崎真音やZAQという存在がアニメにマウントを取るようなことはしない。アニソンシンガーである以上、アニメ作品を裏切りたくないですから。そういうある意味マジメな部分がふたりとも共通して居あるんだろうし、だからといってシンガーソングライターである以上、アニメを裏切らないという前提のもといかに自分の意思を盛り込めるか、を徹底的に考える。アニメのことは裏切らないんだけど、アニメに歌わされてるんじゃない。ちゃんと私が言葉やメロディや歌声を生み出しているんだっていうプライドがある感じですかね。

黒崎:たとえばの話なんですけど、そもそも「すでに原作ライトノベルが20巻発売されているアニメ作品の制作が決まりました」「第1シーズンではそのうち7巻までの物語を映像化します」って決まったとき、私たちは7冊分の小説のすべてを4分くらいの楽曲の中で歌いきることはできないじゃないですか。

ーーそうですね。

黒崎:だからその7冊の小説のうち、どのシーンに、どのキャラクターのどの心情にフォーカスを当てるかっていうことを考えなきゃいけない。そのフォーカスを当てたポイントって、要は共感であったり、なにか“黒崎真音が”感情を動かされたポイントなんですよね。だから原作小説やアニメに寄り添おうって試行錯誤している段階ですでに黒崎真音らしさ、ZAQらしさっていうのは発揮されていると思うんです。アニメのこのシーンに感情を動かされた私ってどういう人間なのか? を掘り下げる作業になりますから。同じ原作小説や同じアニメの脚本をを読んだとしても私とZAQちゃんではまったく違う詞ができあがるはずですし。

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