北野創の新譜キュレーション
KING OF PRISM、Mia REGINA、YURiKA、黒崎真音……意義ある“カバーソング”新譜6選
そのようにアレンジの妙も含めて聴かせるカバー集がある一方で、あえて原曲を忠実になぞったサウンドでアニソンへの愛を示したのが、YURiKAによるカバーミニアルバム『ただいま。 〜YURiKA Anison COVER〜』。小学生の頃からアニソンシンガーになることを夢見て歌唱力を磨き、2014年にNHK『第1回アニソンのど自慢G』で優勝。オーディションを経て2017年にTVアニメ『リトルウィッチアカデミア』のオープニングテーマ「Shiny Ray」で念願のデビューを果たした彼女。本作には、その『第1回アニソンのど自慢G』で披露していた陰陽座「甲賀忍法帖」をはじめ、自身がアニソンシンガーを目指すきっかけとなったAKINO from bless4「創聖のアクエリオン」、さらに美少女ゲームブランド・Keyの楽曲カバーライブを開催するほどの「鍵っ子」として知られる彼女らしい選曲のLia「時を刻む唄」(この楽曲はKeyの人気作をアニメ化した『CLANNAD 〜AFTER STORY〜』のオープニングテーマ)などを収録しており、自らの原点に立ち返ると同時にアニソンのアニソンらしい魅力とまっすぐ向き合った作品になりました。
続いては通常のカバーソング集とは少し趣きが異なるのですが、黒崎真音のニューアルバム『Beloved One』初回限定盤のみに付属するミックスCDをピックアップ。「とある魔術の精霊讃歌(アルトルムフィア)〜DJmix〜」と題したこの特典CDは、アニメおよびゲーム版『とある魔術の禁書目録』シリーズで使用されたこれまでの主題歌・挿入歌を黒崎真音の歌唱によりノンストップクラブミックス化したもの(ミックスはDJ WILDPARTYが担当)。黒崎と言えば1stシングル「Magic∞world」と2ndシングル「メモリーズ・ラスト」でTVアニメ『とある魔術の禁書目録II』のエンディングテーマを担当。それから8年ぶりのTVシリーズとなった『とある魔術の禁書目録III』では、シンガーとしての先輩である川田まみの引退を受けて、それまで彼女が担当してきたオープニングテーマの大役を受け継ぎ、「Gravitation」「ROAR」という作品の世界観に寄り添った名曲を生み出すなど、『とある魔術の禁書目録』シリーズには欠かせない存在となっています。そんな彼女が川田の「PSI-missing」「No buts!」といったヒット曲を含むシリーズを象徴する楽曲を歌唱し、ミックスCDにまとめ上げるという行為は、非常にユニークかつ大きな意味を感じさせます。2010年のデビューからシーンの第一線で活躍してきた彼女の、アニソンシンガーとしての矜持が詰まった作品になることが期待されます。
最後はリリース未定なので厳密に考えると新譜ではないのですが……この4月よりTV放送されている『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』(NHK総合)のエンディングテーマがあまりにも素晴らしいので紹介させてください。2015年から2018年にかけて劇場公開されたアニメ『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』全6話を再編集のうえ、新たなオープニング&エンディングテーマを加えてTVシリーズとして構成した本作品。LUNA SEAによるオープニングテーマ「宇宙の詩 〜Higher and Higher〜」「悲壮美」も話題になっていますが、大のガンダム好きで「機動戦士ガンダム40周年プロジェクト」の総合音楽プロデュースを務めるSUGIZOが手がけたエンディングテーマは、物語の展開に合わせて全4曲が順次公開されていくという仕組みに。現時点(6月5日現在)では2曲がオンエアされていますが、そのどちらとも過去の『ガンダム』シリーズの名曲を採り上げたカバーなのです。
まず第1弾として解禁されたのが、映画『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』(1982年)の主題歌をカバーしたSUGIZO feat. GLIM SPANKY「めぐりあい」。原曲は井上大輔が朗々とした歌声を響かせる壮大かつ感動的なバラードでしたが(歌詞は井荻鱗・売野雅勇、作曲は井上、編曲は鷺巣詩郎)、今回のカバー版では松尾レミのジャニス・ジョプリンを彷彿させるハスキーボイスと亀本寛貴の乾いたギターサウンドがブルージーな雰囲気を演出。原曲よりもロック色を強めながらも、そこはかとなく漂う哀愁が何とも言えない気持ちにさせる名カバーに仕上がっています。
そして第2弾は、TVアニメ『機動戦士Zガンダム』のオープニングテーマとして知られる森口博子「水の星へ愛をこめて」のカバー。こちらは水曜日のカンパネラのコムアイをフィーチャリングボーカリストに迎え、ハープを交えた流麗なオーケストラサウンドをバックに、コムアイがシャーマニックな歌声をエコーたっぷりに聴かせる幻想的な楽曲になっています。ララァ・スンがエンディングのアニメーションにフィーチャーされていることからも、彼女をイメージして作られたカバーであることは明らか。アイナ・ジ・エンド(BiSH)とmiwaが参加予定の第3弾および第4弾がカバー曲になるかは不明ですが、残りの2曲もSUGIZOのガンダム愛が結晶化したような内容になることは間違いないでしょう。
■北野 創
音楽ライター。『bounce』編集部を経て、現在はフリーで活動しています。『bounce』『リスアニ!』『音楽ナタリー』などに寄稿。