兵庫慎司の「ロックの余談Z」 第26回
きのこ帝国が決断した活動休止の選択 兵庫慎司が近年の活動から感じていたこと
谷口滋昭がいなくても、残るメンバーがきのこ帝国の活動再開のイメージが湧いたら、再始動する可能性がある、ということなんだろうか。でも「今後谷口が、またバンド活動を行える状況になった際にはきのこ帝国に戻って来れるように、籍を残したまま活動を休止します」なんですよね? つまり、残るメンバーが活動再開のイメージが湧いた時か、谷口滋昭がまたバンド活動を行える状況になった時、そのどっちかがあればきのこ帝国をやる、ということか。
でも、前者はともかく、後者はねえ……実家のお寺を継いでお坊さんになる人が「またバンド活動を行える状況に」なる可能性、とても低いのではないかという気がする……いや、必ずしもそうとは言い切れないか。PLAGUES/Mellowheadの深沼元昭の例もあるし(実家が寺でいずれは継ぐということを90年代から明言していたし、本人のツイート等によると実際に継いだようだが、ミュージシャンとしての活動もやめていない)。
かつ、「これまで4人で歩んできた10年間の中で、谷口以外のベーシストと、きのこ帝国を続けるイメージは現状出来ませんでした」とも書いてあるのに、「残るメンバーがきのこ帝国の活動再開のイメージが湧く」ことなんて、今後あるんだろうか?……あ、でも「現状出来ませんでした」って、“現状”という言葉が入っていますね。じゃあ今は無理だけど、将来的には「谷口以外のベーシストと、きのこ帝国を続けるイメージが出来ました」ってこともあり得るかもしれないから、ということか?
というふうに、この文章を何度も読みながらあれこれ考えてしまうこと自体に、ああ、俺もけっこうショックを受けてるんだなあ、と自覚しました。詞曲の確かさはもちろんのこと、初期から「シューゲイザー」とか「ギターバンド」とかのいかにもなレッテルをべたべた貼られながらも、それを一作一作で確実にひっぱがしていくような、そして一枚剥がすたびにオリジナルな表現に近づいていくような、かといってシンプルな音のままで歩んてきたあのバンドを、俺は好きだったんだなあ、と。で、「そろそろゴールかな」とか思ったことはなかったんだなあ、この先の歩みも追っていくつもりだったんだなあと。
とにかく、今後のそれぞれの活動に期待します。さしあたって、もっともネクストアクションが見えているのは佐藤千亜妃なので、引き続き追いたいと思います、気持ち悪がられない程度に。とうに気持ち悪がられている可能性も大いにあるが。
■兵庫慎司
1968年生まれ。音楽などのライター。「リアルサウンド」「DI:GA ONLINE」「ROCKIN’ON JAPAN」「週刊SPA!」「KAMINOGE」などに寄稿中。