兵庫慎司の「ロックの余談Z」 第26回
きのこ帝国が決断した活動休止の選択 兵庫慎司が近年の活動から感じていたこと
つまり、佐藤千亜妃のソロ作品なりソロライブなりが、きのこ帝国と同じような音楽性だったら、バンド活動への不満があると判断してもいいだろうが、そうではなかった、ということだ。きのこ帝国のサウンドフォーマットでは物理的に不可能な音楽もやりたくなった、だからそっちは別ユニットでやる、ということが、聴けば(観れば)わかるようになっていた、ということだ。
で、本当にそうだから素直にそうしたんだろうけど、そのあたりがまぎらわしくならないように注意しながらソロを行ってきた、というところも、佐藤千亜妃的にはあったのではないかと思う。本人に聞いたわけではないので、僕が“思う”だけですが。
ギターのあーちゃん(Gt)曰く「そもそも最近バンドの活動をしてなかったのは『10周年も終えたししばらく個々に過ごしてみよう』という、全くネガティブ要素のない理由からでした」という時期に入る時も、「きのこ帝国はしばらく休止します、その間佐藤千亜妃はソロに専念します」みたいなステイトメントを出さなかったのも、同じ理由だと思う。事実上はしばらく活動しないけど、本気の休止じゃないですよ、という。
そのため、このたびの谷口滋昭の脱退の申し出は、メンバーにとっては青天の霹靂だったのではないか、と推測する。じゃなかったら、(このあたりはスタッフワークも含めてだが)こんなにバタバタした休止ではなくて、10周年で一区切り、そこからは佐藤千亜妃はソロ、バンドは休止、というふうにプランニングして、ちゃんとアナウンスして進めただろう。いやらしいことを言うと、その方がビジネスとしてもおいしいし(たとえば会場をでかくして活動休止ツアーを行うとか)。というようなバタバタ感が、「ああ、作為なかったんだなあ、本当にそういう事情だったんだなあ」と、僕には思えたのだった。
あとひとつ。「これからは、残るメンバーがきのこ帝国の活動再開のイメージが湧くまで、それぞれが別の道を歩みます。佐藤千亜妃、あーちゃん、西村コン、谷口滋昭の今後を応援して頂けたら幸いです」というところが、ちょっと気になる。
「今後谷口が、またバンド活動を行える状況になった際にはきのこ帝国に戻って来れるように、籍を残したまま活動を休止します」と決めて、なおかつ「残るメンバーがきのこ帝国の活動再開のイメージが湧くまで」休止する、というのは、どういう状態のことを指しているんだろう?