AA=は11年目に向かって走り続けていく 新たな兆しも見えた『TOUR THE NEXT』東京公演

AA=『TOUR THE NEXT』東京公演レポ

 昨年、デビュー10周年を迎えたAA=。上田剛士のソロユニットとして始まったが、ライブをきっかけに大枠のメンバーが定まり、当初金子ノブアキひとりだったドラムのポジションには、スケジュール等の事情によりZAXとYOUTH-K!!!の二人が名を連ねていった。その全員をステージに上げ、圧巻のトリプルドラムからスタートした昨年10月のアニバーサリーライブは、つまるところ「この全員でAA=だ」「AA=とは共同体、すなわちバンドである」という確認の意味があったと思う。全員がブタマスクを被っていたオープニングの演出も然り。AA=は決して上田ひとりのものではない。10年の月日をかけてそうなっていったのだ。

 そこから約半年。また変化の兆しがあった。スタートは「INEQUALITY」。続く「I HATE HUMAN」もそうだが、10周年記念の再録ベストには入らなかった曲がかなりセットリストに組み込まれている。また、オープニングを飾るこの2曲、いわゆるメロディらしきものが存在せず、脳天をぶち抜く爆音とアジテート&シャウトのみで構成されるハードな楽曲である。YOUTH-K!!!のテクニカルなビートが映える。ぶっ壊れていきましょうか、と上田が不敵に笑う。アニバーサリーの祝祭、辿ってきた道のりの確認はもうおしまい。次へ! と走り出す意思がそこにはあった。

 そして、そんな幕開けだからこそ、「posi-JUMPER」で聴けるようなメロディが爆発的な効果を生むのだ。MCでぽつりと語った“間違いだらけの世界”がディストーションまみれの爆音で表現されているなら、それに拮抗する光、あるいは目指すべき指針のようなものがメロディに集約されている。ファンはシンプルなメロディのもとに一体となり、全力で声を上げている。幼児でも一発で覚えられる単純明快な旋律だが、AA=は無邪気にはしゃぎたい連中の音楽ではない。発信者に信じるものがあり、平和や平等を掲げたメッセージがはっきりとあるのだから、英語で何か言ってらぁ、程度の理解では到底ついていけないだろう。

 ほとんどのファンがシンガロングするフロアの熱狂は、だから、いい意味で宗教的でもあるなと思う。下手な弁舌をふるわないのが逆にいい。音楽だけ、メロディだけ。それが上田のカリスマ性をより強固なものにしている。ハードに攻めまくる前半から、中盤にはことさらブライトな「Such a beautiful plastic world!!!」が披露されたが、少年みたいな目で〈ここにウソなんて無いんだ〉と歌い、その手で客席をはっきり指さした上田を見ていて、この人の言うことなら信じられる、と素直に思ってしまう。どんなに世界が不条理で不平等で間違いだらけであっても、このライブハウスの中には希望がある。そんな青臭いことを真顔で言いたくなる熱狂である。

 そして上田は、無自覚なのか意識的なのか、無駄なMCをしないぶん手の表情が豊かだ。右の拳を突き出し、その拳で左胸を何度も叩いてみせる。心を込めて。もしくは、心折れることなく一一。それは薄っぺらな言葉の連呼よりも雄弁なメッセージになるだろう。また上田が無音の中でゆっくりと手を上げれば、ファンも何かを表明するように同じく手を上げる。人差し指を下に向けてぐるぐる回す仕草をすれば即座にサークルモッシュが発生し、手のひらを上下に動かせばフロア全体が揺れるほどのジャンプ大会になる。まるで、彼の掌にすべてが委ねられているよう。ファンは上田剛士の一挙手一投足を信じているし、上田もまた集まってくれるファンに全幅の信頼を寄せている。そのことは互いの表情を見ていれば痛いほど伝わってきた。

 リーダーは上田剛士。そのことをメンバーも理解している。もちろん児島実(Gt)はアグレッシブに客を煽るし、白川貴善(Vo)もステージ中央で悠然と構えている。ただ、シャウトとメロディパートを器用に歌い分ける白川は、曲が最も輝くところ、すなわち最高のメロディがハジけるところでフロントの座を上田に譲る。助演を完璧にこなし、物語をどんどん盛り上げて、一番の見せ場になるとスッと身を引くような感じ。改めて思うが、これはどんなボーカリストにもできる芸当ではないだろう。フロントに立つがフロントマンではない。かといって単なる仕事でもなく、メッセージや熱量ならもちろん積極的に共有する。全員でAA=という確認を経たがゆえに、改めてメンバーの細やかな配慮、役割分担の明確さが浮き上がってくるのだった。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「ライブ評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる