指揮者 大友直人が明かす、羽田健太郎作『交響曲 宇宙戦艦ヤマト』の誕生秘話

大友直人『交響曲 宇宙戦艦ヤマト』誕生秘話

「クラシックの閉塞感に風穴を開ける作品になってほしい」

――初演はNHK交響楽団と。その後、2009年に劇場版第5弾『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』公開に先立ち、東京交響楽団の定期演奏会で25年ぶりの再演。また日本フィルハーモニー(以下、日フィル)によるセッション録音も行われました。それら全てを大友さんが指揮されています。

大友:といっても実際に演奏された回数は多くはない。できれば一刻も早く、私以外の指揮者で、海外も含めていろんな場所でオーケストラのレパートリーとしてとりあげて欲しい。それだけの魅力とクオリティを持った作品ですから。

――初演では羽田さん本人がピアノで参加していたので、第4楽章のピアノ譜は(自分で演奏するのを前提としていて)細かく書かれていなかったというのも、同時代のコンポーザーピアニストによる作品ならではのエピソードですね。そのため、2007年に羽田さんが亡くなられた後は、初演時の音源と映像からピアノパートを採譜したとか?

大友:そうなんですよ。ただ2009年の日フィルによるセッション録音でもそうやって採譜したものを横山(幸雄)さんに演奏してもらったのですが、実際にはかなり横山さんのアドリブが入っているのがわかります……それも、羽田さん風の。オマージュを捧げていて本当に指の回し方とかそっくりなんです。ただ、横山さんの方が速い(笑)。

――では、スコアの隅々まで読み解いて、この曲を知り尽くしている大友さんから見た『交響曲 宇宙戦艦ヤマト』の魅力とは何でしょう?

大友:それは羽田さん自身が若い頃からずっと持っておられた信念でもあると思うのですが、素晴らしい音楽というものは、いつも聴く人の心を捉え、揺り動かすものであるということに尽きます。この作品を指揮していて毎回思うのは、斬新さとか現代性とかを超越したところから、音楽の魅力が立ち昇って来るという点です。もともとは1970年代のアニメ作品から生まれた作品ですが、それを全く知らない世代が触れても、そこから十分いろんなものを感じとることができる。

――今回リリースされたばかりの新しいCDは、2017年に完全な形で発見された直筆スコアをもとに、2018年8月25日に行われたミューザ川崎シンフォニーホールでの、東京交響楽団(東響)のコンサート『名曲全集』に組み込まれた演奏をライブ録音したものですね。当日のプログラムにはモーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」などもあり、この楽曲が『ヤマト』音楽の特集ではなくクラシック作品として扱われていたことも印象的です。

大友:時間に淘汰されてなおレパートリーとして弾き継がれている、という意味では、歴史の長さは圧倒的に違いますがモーツァルトの交響曲と同じということなのです。この作品に対して、何かしらのストレスを感じるプレイヤーは恐らく誰もいないと思いますよ。リハーサルからすっと音楽の中に入っていくことができるはずです。

――ソリストも2009年のセッション録音と同じ最強メンバーが、9年の歳月を経てパワーアップして再集結しています。現在のオペラ界で輝かしいキャリアを重ねつつあるソプラノの小林沙羅が慈愛をたたえた歌声を披露する第3楽章、共に人気ソリストである大谷康子(ヴァイオリン)×横山幸雄(ピアノ)の二人が絶妙な掛け合いを繰り広げる第4楽章は特に必聴です!  東響のホームグラウンドでもある会場は終演後にブラボーの嵐となり、6分にも及ぶ惜しみない拍手が続いたそうですね。

大友:第1級のソリストたちによる熱量の高い演奏になりました。これだけのメンバーを集めるのは難しいとは思いますが、私としてはぜひ、いろんな団体がこの曲に挑戦してくれることを願っています。特に東京だけでなく全国から、そして海外からも!

――今や日本のサブカルチャーとしてのアニメは世界的なブームですから、期待は高まります。

大友:それに先ほども言ったように、クラシック作品として普遍性をもって海外でも通用すると思います。実際、2009年に東京芸術劇場で25年振りに再演した時には、パリのオーケストラで首席ヴィオラ奏者を務めているフランス人の友人にも非常に好評でしたし、沖縄の琉球交響楽団で演奏した時には、国際交流でハワイのオーケストラから来ていたホルン奏者の女性も「いい曲だから、ハワイでも演奏したい」と気に入ってくれていました。クラシックの世界はどこも閉じこもりがちな傾向があるので、この作品がその閉塞感に風穴をあける存在になってくれたら嬉しいです。

――最後に、ひとつだけお聞きしたいことが……今回のライブ録音では第4楽章が初めて、羽田さんの直筆スコア通りのオリジナルエンディング版が採用されたということですが。初演で同楽章が西﨑プロデューサーの強いリクエストによって変更が加えられたいきさつについて教えて下さい。

大友:それが実に西﨑さんらしいエピソードなのですが、リハーサル演奏が終わった後で、彼が「どうしても締めが物足りないのが気になる、最後にもう1回だけヤマトらしいテーマを入れたい」と言い出して、それに羽田さんが譲歩したかたちで、その場で変更が加えられたという、いきさつです。普通ならあり得ない話ですが、あの場には有無を言わさない雰囲気があった。いろんな意味で凄い人でした……羽田さんも宮川さんもそうでしたが。3人ともすでに亡くなられて久しいですが、そんな凄い皆さんが活力に満ち、本当に輝いていたのがあの時代でした。彼らが音楽に託した夢と希望と、途方もないエネルギーを、このCDから皆さんが感じとっていただけたら幸いです。

(取材・文=東端哲也/写真=林直幸)

■リリース情報
『交響曲 宇宙戦艦ヤマト』〔UHQCD〕
テーマ・モチーフ:宮川 泰/羽田健太郎
¥3,000+税
大友直人 指揮/東京交響楽団
大谷康子(ヴァイオリン) 横山幸雄(ピアノ))小林沙羅(ヴォカリーズ)
録音:2018年8月25日 ミューザ川崎シンフォニーホール
配信情報はこちら

<収録曲>
1.羽田健太郎:交響曲 宇宙戦艦ヤマト
第一楽章 誕生
2.羽田健太郎:交響曲 宇宙戦艦ヤマト
第二楽章 闘い 〈スケルツォ〉
3.羽田健太郎:交響曲 宇宙戦艦ヤマト
第三楽章 祈り 〈アダージョ〉
4.羽田健太郎:交響曲 宇宙戦艦ヤマト
第四楽章 明日への希望 〈ドッペルコンチェルト〉

■イベント情報
羽田健太郎作曲『交響曲 宇宙戦艦ヤマト』配信記念!“イベント限定サラウンド音源”試聴イベント

羽田健太郎作曲『交響曲 宇宙戦艦ヤマト』のハイレゾ配信を記念して、今後発売未定の“5.0chサラウンド版『交響曲 宇宙戦艦ヤマト』”の試聴会を実施。スペシャルトークゲストとして指揮者の大友直人氏が参加。e-onkyo musicにて『交響曲 宇宙戦艦ヤマト』をご購入頂いた方の中から、抽選で25名様を招待します。

スペシャルトークゲスト:大友直人(指揮者)
日程:2019年6月16日(日)
時間:13:00 開場 13:30 開演 15:00終演予定 (多少前後する可能性があります)
場所:都内某所(詳細はご当選連絡時にお知らせいたします)
参加費:無料 (※すでにご購入頂いている方も対象となります。)
応募期間: 5月15日(水)まで
応募方法:詳細はこちらから
※当選された方には、2019年5月16日以降にメールにてお知らせいたします。
※サイン会はございません

『交響曲 宇宙戦艦ヤマト』特設サイト

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