「HURRICANE」インタビュー
ReNが語る、「HURRICANE」に込めた衝動「カタルシスを描きたかった」
新木場は今までの音楽人生に「句点」を打つべき場所に
ーーReNさんは10代の頃、海外生活を経験しているんですよね。それによって、自国への想いは変わりましたか?
ReN:僕は日本にいるよりも海外に出た方が、日本のことをより深く知ることができるんじゃないかと思いますね。ただ、僕がそれを偉そうに語ることは違うのかなって(笑)。それでも個人的に思うのは、結構僕たちは最先端だと思っていたし、いろんなものが揃っていて。でも、実はそういう恵まれた環境の中にいながら、世の中のことを何も知らない人も多いんだなということです。もっと貧しいところに住んでいる人の方が、世界を広く見ていることもあるなと。
僕はイギリスに住んでいたのは今から10年前で、SNSがどんどん普及していく最初の時期だったんですよね。Facebookも爆発的にはやり始めて。僕もちょうどその年にアカウントを作った記憶があります。そこからどんどん、SNSの役割が増えていきましたよね。最先端のようで、実はコントロールされているなということは感じました。
ーー「HURRICANE」というカタルシスを使わなければならないくらい、日本が窮屈だと感じることもありますか?
ReN:僕らの世代の人たちって、大きな夢を追いかけるよりも「身近な幸せ」を求める傾向にあるって言われていますよね。でも、どこかでは「何者かになりたい」という気持ちもあって、そういう屈折した感情の交差というのが、SNSによって様々なカタチで「可視化」されたのは大きいと思うんですよね。SNSが発展した結果、選択肢が多くなる一方で情報に縛られる人もものすごく増えて。
僕自身、10年前から「良かれ」と思って始めたSNSが、思ってもいなかった方向へ進んでいることに戸惑いを感じていますね。おそらく、多くの人が同じように思っているんじゃないかな。「でも、どうすることもできないよね」っていう諦めの感情もあるし。何か大きな声で叫んだとしても、あっという間に情報の渦に飲み込まれて「全く届かないよな……」という思いを抱いている人は多い気がします。……この曲とは全然関係ない話になってしまったけど(笑)。
ーーでも、すごく興味深いです。
ReN:そのことに対して、自分なりの答えを曲にして歌うことももちろん大事だと思うんだけど、その現場をそのまま歌うことにも意義はあると思っていますね。
ーー「そこで何が起きているのか?」をありのままスケッチするということですね。「HURRICANE」もそういう楽曲だと。
ReN:「自分が生きるこの世界は、この先どうなっていくんだろう?」という漠然とした不安……それを今回は歌にしてみたいなと思ったわけです。繰り返しになるけど、そこでパーソナルな言葉をどれだけ使うのか、普遍的な言葉に置き換える場合、そのバランスはどうすべきかなど、すごく考えながら作っていきました。
もちろん、曲によっては自分なりの「答え」を示す時もあるけど、自分が「痛い」と思ったことを、他の誰かも「痛い」と思ってくれているんだなというところで繋がっていくことの方が、大切な時もあるのかなって。誰かに何か相談する時も、答えを投げられるより「わかるよ」っていう共感がほしいだけの時が多いじゃないですか。「俺も分かんないけど、だけど同じ気持ちだよ」っていう言葉でひとつになれることもあると信じているんですよね。それもひとつの繋がりなんじゃないかなって。
ーーそんなReNさんは、同世代の日本人アーティストのことをどんなふうに見ていますか?
ReN:借り物の感情や言葉ではなく、自発的な叫びを「音楽」で表現しているアーティストが、最近は多くなってきた気がしますね。もちろん、昔からそういう人たちはたくさんいましたけど、昔より外に出てきやすくなったんじゃないかな。というのも、何かカタチになれば今ならすぐ自分で発信できるようになったじゃないですか。音源をリリースするまでに、いくつものプロセスを経なければならなかった時代と比べると、本当に気軽に発信できるようになった。
リスナーにとっても「このお店でしか買えません」「これだけしか置いていません」というマーケットはどんどん無くなって、古今東西あらゆる音楽がいっぺんに並べられて、リスニングの手段もダウンロードからアナログまで様々な選択肢が増えた。音楽を聴く環境が広がったことで、音楽の受け止められ方もどんどん変わってきているかもしれない。そこは、SNSの良い部分なのかなって思います。
ーー物事には必ずポジティブな部分とネガティブな部分が存在していますからね。そんな中で、どうやって表現をし続けていくのかが今後の課題なのかなと。
ReN: そう思います。
ーー4月20日に大阪BIGCAT、5月30日に新木場でワンマンツアー『衝動』を行なうとのことですが、その意気込みを聞かせてください。
ReN:「今しかできない場所」だと思っているんですよね、強気な発言と思われるかもしれないですけど(笑)。自分にとって、このイベントには特別な思い入れがあって。というのも、自分が「音楽ってヤバイね!」って心から思ったのが、新木場で2014年に観たエド・シーランなんです。ちょうど精神的にもいろんな葛藤があった時期に、彼の音楽に触れたことは本当に大きくて。そのステージに自分も立つというのは、ある意味では「節目」というか。「いつか、あのステージに立つためにこの会場に戻ってこよう」という、自分自身の約束を果たす意味もあるんです。
それと、僕は今でもエド・シーランが大好きだし目標ではあるんだけど、どこかで「自分だけの音楽をやる」っていうシフトにしなければならなくて。
ーーある意味では「エド・シーランからの卒業の日」になるのかもしれないですね。
ReN:今までの自分の音楽人生に、ある意味では「句点」を打つべき場所が新木場なのかなって。ここから先を見据えるためにマストな場所だったんですよね。これからは、自分にルールを課せず、「シンガーソングライター」という中心軸はブレないまま色んな音楽を試してみたい。ロック、フォーク、R&Bに絞ったとても、まだまだ世の中には知らない音楽がたくさんあるから、それをリアルタイムでインプットしながら、自分の表現にしていくことに、今からワクワクしています。
(取材・文=黒田隆憲/写真=中村ナリコ)
■リリース情報
『HURRICANE』
2019年4月17日配信
■ライブ情報
『ONE MAN TOUR 2019『衝動』』
4月20日(土) 大阪 BIGCAT
5月30日(木) 新木場Studio Coast