非日常的な空間とアンビエントミュージシャンの競演 『花紅柳緑@浜離宮恩賜庭園』イベントレポ
昼間は汗ばむほどの陽気だったが、20時を過ぎると少し肌寒い。帽子を目深に被り直し、持参したマフラーを首に巻きつけ再び遊歩道を歩く。せっかくなので、少し並んででも「中島の御茶屋」に入ってみることにした。
およそ20分ほど待ってようやく中に入ると、ちょうどKate NVことケイト・シロノソヴァのパフォーマンスが始まったばかり。モスクワ出身の彼女は、現代音楽をはじめ80年代ポップスやエレクトロ、日本のニューウェイブなどにも影響を受けた作品をリリースしているアーティスト。マイクスタンドにはトライアングルやホースなどがぶら下げられ、シンセやミキサーが置かれたテーブルには水を張ったワイングラスも用意されていた。相変わらず入場規制が続いていたため、あまり長居はできなかったが、コロコロとしたシンセ音を幾何学的に並べ、徐々にそのレイヤーをずらしながらモワレ状の音像を構築していく様子は、どこかスティーヴ・ライヒを彷彿とさせるところもあった。
再び「富士見山下」へ戻り、ヒカシューの山下康と井上誠により結成されたシンセサイザー・ユニットINOYAMALANDの演奏を聴く。細野晴臣プロデュースにより、1983年に1stアルバム『DANZINDAN-POJIDON』をリリースした彼らは、日本のアンビエントミュージックの先駆者的な存在として海外での評価も高い。2人並んでシンセの前に座り、時おりシタールなどインド音楽を思わせる音色をちりばめつつ、重厚でスペイシー、かつ抒情的なシンセサイザーによるアンサンブルを夜空に放つと、美しい庭園と近未来的な東京の夜景、照明やスモークによる幻想的な演出、そして木々の匂いや夜風の感触などと、絶妙なハーモニーを生み出していた。
19時半から始まり21時半でクローズ。アンビエント系のイベントとしては少々コンパクトだったが、国内外で活躍するミニマル〜アンビエント系のミュージシャンのショーケースとしても楽しめる素晴らしい内容だった。もし次があるなら、是非ともこの美しい庭園で、アンビエントミュージックに浸りつつ朝までゆったりと過ごしてみたい。
(写真= Yusuke Kashiwazaki/Red Bull Content Pool)
■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。