シングル『The Key』インタビュー
AFOC 佐々木亮介が問う、バンド音楽に対する問題意識「ラップにこそロックの歴史が息づいている」
「今はまだバンドの可能性を期待している」
ーーそれを実践しているアルバムって思いつきますか?
佐々木:今回のアルバムのエンジニアの池内亮さんは、最近のサニーデイ・サービスとかにも携わっていて今っぽい音色が好きなんですよ。そんな池内さんと一緒に盛り上がったのが、カニエ・ウェストが昨年リリースした一連のシリーズで。『ye』にしても、かなりギターやドラムが入っていて、もちろんエディットは施されているけど、ヨレを活かしてるなって思ったんですよ。大袈裟な理想を掲げるとすれば、カニエがやってるような生楽器や声の面白さを取り入れたいですね。それはいつも意識しています。
ーーそんなふうに、『CENTER OF THE EARTH』を作るにあたって参照した音楽は他にもありますか?
佐々木:このアルバムについては、あまり参照点を作らないようにしました。俺が今聴いている音楽ばかり参照すると、ロックバンドにならなくなるので(笑)。もし勇気付けられたことがあるとすれば、The FADERというアメリカのメディアが好きで。あそこをチェックすれば今のことが大体わかる。で、「10 songs you need in your life this week(あなたが今週聴くべき10曲)というレギュラー記事があるんですけど、そこではメインストリームやSoundCloudラップなんかと一緒に、オルタナバンドもたまにピックアップされているんですよ。そこで紹介されてるようなバンドは、希望の光だなと思っていて。
ーーたとえば?
佐々木:最近よく聴いているのはローファイなやつですね。Remember Sportsとか、音はショボいんですけど格好いいですよ。絶対にクリックを聞いてなさそうな演奏で(笑)。ラップが流行りまくってるからこそ、そういう荒いギターの音が求められてる気がします。
ーーそれはあると思います。
佐々木:それに、ラッパー側もオルタナバンドのことを意識してますよね。彼らは暴れたがるじゃないですか。マリリン・マンソンが好きで、自分がロックスターだと言い出してるし。そういう光景を見てると、ラップの世界にこそロックの歴史が息づいているというか。彼らにいろいろ持ってかれてるし、なんか悔しくなるんですよ。だから俺は、彼らが好きそうなロックを抽出しなくちゃいけないなって。
ーーそういった志を、日本で共有しているバンドって思い浮かびます?
佐々木:いやー、みんな悩んでるとは思いますけどね。こないだ、FIVE NEW OLDと話したんですけど。彼らはもともとポップパンク的だったのが、最近はThe 1975みたいな感じになってきて。一応バンドフォーマットなんだけど、音自体はそういう感じではなくなってきてる。そういうやり方もありますけど、a flood of circleの場合はギターをうるさくしないと、一緒にやってる意味がないと思うので。
ーーエレクトロニックな音にも頼らず、あくまで荒々しい音と演奏を貫きながら、バンドの可能性を模索していると。
佐々木:そうですね。サウンド面で攻めるところもありつつ、ドラムのナベちゃん(渡邊一丘)だったらQueens of the Stone Ageが好きなところを活かすなど、音的にはロックバンドらしいものにしたいですね。たとえば、『CENTER OF THE EARTH』に入ってる「ハイテンションソング」や「Drive All Night」では、3連符のフロウを入れているパートがあるんですが、ビートのBPMは180くらいあって(笑)。そういうウワモノのトライはかなりしてるんですけど、(変わるためには)やっぱりリズムが一番デカイと思っているので。そこをメンバーとどう落とし所をつけていくかは、まだ模索しているところです。
ーー今の話で、完成型のビジョンはどれくらい見えてるんですか?
佐々木:自分のなかでは、デモを作った時点ではっきりとしたイメージがあるんですよ。生ドラムとトラップのビートを混ぜたり、そこにロックのリフを乗せたりとか試しているので、これを形にできれば上手くいくと思ってるんですけど。それが最終的に、どういうものに仕上がるのかはメンバーの気分次第なんで(笑)。a flood of circleは民主主義をめちゃくちゃ大切にしていますし、それを放棄したらバンドをやってる意味もなくなっちゃうから。
ーー圧倒的なリーダーによる独裁に、他のメンバーはついてくだけというバンドもあるんでしょうが、それだとバンドマジックは薄れそうな気がしますよね。
佐々木:僕らも正直、そういう時期はあったんですよ。でも、今はまだバンドの可能性を期待している自分がいるので。
ーー他のインタビューでも語っていたように、今は曲がたくさんできてしょうがないモード、という認識で間違ってないですか?
佐々木:そうですね。時間があったらずっとやってますし、iPhoneにもGarageBand(音楽制作ソフトウェア)が入ってるので、新幹線とかに乗っている間もトラックが作れるんですよ。だから最近は、移動中にカバー音源を作るのがマイブームですね。
ーーどの辺りをカバーするんですか?
佐々木:XXXTentacion、セイント・ヴィンセント、ポール・マッカートニー、サム・クック……70人分くらいすでにカバーしてて。いくつかはこっそりSoundCloudにアップしてます。
ーーそれって研究と遊び、どっちに近いと思います?
佐々木:両方ですね。正直、XXXTentacionの「SAD!」をカバーしたからって、a flood of circleのファンに響くとは一ミリも思えないし。逆に「SAD!」のカバーを面白がる人たちが、a flood of circleを聴いてくれるかもわかんない。でも、そういう状況を冷静に捉えるよりも、夢中になって楽しんでる自分を大事にしたいし、そのエネルギーがいつか奇跡を生むかもしれない。そういう希望を無理やり持ちつつ、マイペースにやってる感じですかね。
ーー少なくとも、佐々木さんの経験値は上がってるんじゃないですか?
佐々木:お勉強だとは思ってないけど、たしかにそうですね。実際、カバーすることで初めて気づくことも多くて。トラップの曲にもコード進行が意外とあるんだなとか、セイント・ヴィンセントはめちゃくちゃThe Beatlesっぽいなとか。「Happy Birthday, Johnny」っていう曲が、ポール・マッカートニーの「Warm And Beautiful」とコード進行がほとんど一緒なんですよ。もちろん、プロダクションは全然違うんですけど。
ーーへえ、面白い!
佐々木:そういうことに気づくと、いろいろ考えさせられますね。バンドの音が進化しないのは、プロダクションが変わっていないからなんだって。そういうのもあって、『CENTER OF THE EARTH』を作るときは、生のグルーヴをかっこよく聴かせたくて、池内さんにもそうリクエストしました。
ーーAlabama Shakesの『Sound & Color』が出たときは、「バンドのプロダクションに、まだこんな可能性があったんだ!」って盛り上がったじゃないですか。でも、あれから4年経ったのに、その次というのはまだ見えてこないですね。
佐々木:たとえば、ラップのトラックみたいな低音をバンドで出そうとするのは、あまり意味がなさそうな気がしていて。出ないものを出そうとしても、あんまり格好良くならないんですよ。それよりも、2020年以降を考えたときに、みんなトラップに飽きたところで、グリットに囚われないビートの時代がまた来るんじゃないかと思っていて。
ーーそれはありえそう。
佐々木:実際、Tame Impalaの新曲「Patience」は、アートワークにコンガの写真を使っているように、生のビートを思い切り叩いてるんですよ。「こいつら、もう先に行ってる!」と驚きましたね。ただ、そこからドラムキットまで再評価されるかというと、かなりの難問ですけど。でも、a flood of circleはドラムでやってるわけだから、そこはなんとかしていきたいです。