柴 那典の新譜キュレーション

KOHH、Dave、君島大空……新しい形のディプレッション表現する男性アーティスト新譜6選

Juice WRLD『Death Race for Love』

Juice WRLD『Death Race for Love』

 XXXTentacionとLil Peepのいない今、いわゆるエモラップのスターダムに最も近いところにいるのが、シカゴ生まれの20歳、Juice WRLDだろう。

 僕が彼の名を知ったのは、スティングの「Shape of My Heart」を大胆にサンプリングした「Lucid Dreams」がきっかけ。感傷的でセンチメンタルなあの1曲の大ヒットで瞬く間に支持を広げメジャー契約を勝ち取り、昨年にはデビュー作『Goodbye & Good Riddance』をリリースして全米2位。さらにはフューチャーとのコラボレーションによるミックステープ『WRLD ON DRUGS』をリリースするなど作品を重ねてきている。とんとん拍子のようなスター街道を歩んでいる彼だけれど、この2ndアルバムは、その才能が決してフロックなものじゃないことを証明するものだと思う。

Juice WRLD - Fast (Official Audio)

 アルバムの中心的なテーマはドラッグと虚無。僕が特に好きなのは「Fast」で、そのタイトルの通り加速して止まらない人生を綴った曲。どこかポスト・マローンにも通じるヤサグレ感とやるせなさがあっていい。

Kvi Baba『19』

Kvi Baba『19』

 大阪・茨木出身、現在19歳のラッパー。つまり上に挙げたJuice WRLDらと完全に同世代。彼のスタイルもエモラップという括りに紐付けられるものだ。というより、XXXTentacion以降、完全にユースカルチャーとして一つの潮流が形になり、世界中でそうしたスタイルの表現者が登場してきているのが現在だと思う。

 そういう中でも、声とフロウにピンときたのがKve Babaだった。抑圧と鬱屈を経てきた声と言葉、という感じがした。2月に1st EP『Natural Born Pain』をリリースし、3月に2nd EP『19』をリリース。いくつかのインタビューを読むと、居場所と行き場所のなさを抱えて育ってきた経歴の持ち主だという。BACHLOGICがプロデュースを手掛けた「Planted in Problem」には、その心情がリアルに綴られている。

Kvi Baba / Planted in Problem (Official Music Video)

■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば」Twitter

関連記事