『bless You!』インタビュー

ORIGINAL LOVE 田島貴男が語る、日本のポップスに感じた変化「救いや祝福の歌が増えている」

 ORIGINAL LOVEから通算18枚目のオリジナルアルバム『bless You!』が届けられた。

 “人生賛歌”をテーマにしたタイトル曲「bless You!」、ORIGINAL LOVEのポップサイドを端的に示した「ゼロセット」、気鋭のラッパー・PUNPEEをフィーチャーした「グッディガール feat.PUNPEE」などを収録した本作。木暮晋也、真城めぐみ(Hicksville)、冨田 謙、村田シゲ(□□□)、小松シゲル(Nona Reeves)といったライブメンバーに加え、名盤『風の歌を聴け』(1994年)にも参加した小松秀行、佐野康夫、さらに河合代介、渡辺香津美、岡安芳明、長岡亮介(PETROLZ)、角銅真実などのゲスト陣を迎えた本作には、“ルーツミュージックに根差した日本のポップス”を追求してきた田島貴男の現在地が明確に示されている。「最高傑作が出来たと思ってる」と楽しそうに語る田島に、本作の制作について聞いた。(森朋之)

ORIGINAL LOVE -bless You! (Love Jam Ver.)

自分はずっと同じことをやっている

ーーニューアルバム『bless You!』、素晴らしいです。ORIGINAL LOVEが追求してきたスタイルがさらに磨き上げられると同時に、新しいORIGINAL LOVE像も感じられるアルバムだな、と。

田島:良かった。嬉しいです。

ーーここ数年、田島さんが傾倒しているジャズギターの要素がかなり反映している作品だとも思います。まず、ジャズギターを学び始めたきっかけを改めて教えてもらえますか?

田島:2011年に通常のバンドツアーと並行して、『ひとりソウルショウ』というライブを始めたんです。どういうスタイルでやろうか色々と考えたんだけど、結局は、ギター1本と歌だけでワンステージやることにして。ひとりで2時間のステージをやりきるには、そのためのギタープレイを身に付けなくちゃいけない。お客さんに踊ってもらったり、ときには歌ってもらったりして、楽しんでもらうためにはどうしたらいんだろう? と考えてるときに、ブルースに出会ったんですね。カントリーブルースと呼ばれている音楽があるんだけど、1920年代、30年代のミュージシャンはギター1本でライブをやっていた。改めて聴いてみると、以前聴いたときとはまったく違う印象を受けたんです。しかめツラで真剣にやってるのではなくて、酒場で騒いだり笑ったり、ヤジを飛ばし合いながらやっていたんだなということがわかって、「これは自分がやろうとしていることと同じだな」と。

 それから2年くらいカントリーブルースのギターを練習してたんだけど、そうすると当然、ジャズギターが気になってくるわけですよ。ジャンゴ・ラインハルトだったり、チャーリー・クリスチャンだったり、いろいろなスタイルのギタリストがいるんだけど、ジャズギターが弾けたら、『ひとりソウルショウ』の彩りが増えるかなと。自分で本を買って勉強もしたんだけど、それだけじゃわからなくて、アルバムに入ってる「ハッピーバースデーソング」でギターを弾いてもらっているジャズギタリストの岡安芳明さんのレッスンを受け始めたんです。それは今も続いてるんだけど、ジャズの理論がおぼろげながらわかってきて。コードの積み方なんかもそうだし、それが作曲の広がりにつながってきたんですよね。前回の『ラヴァーマン』あたりからそういうタイプの曲を作り始めて、今回のアルバムでは、それをさらに発展させて。

ーージャズギターを学んだことが、楽曲の制作にも反映されていると。

田島:もちろん。ロック、ソウルもジャズに影響をすごく受けているんですよ。デューク・エリントンの力が大きいんだけど、1940年代までにすでにあらかたポップスの和音の構成はやりつくされてるんですよね。そのことがわかるようになって、古いロックやポップスを聴くのがおもしろくなってきたんです。たとえばスティービー・ワンダーにしても、ただの3コードの曲のように聴こえても、そこにジャズのテクニックを微かに入れていたり、じつは非常に洗練されているんですよね。そうやって音楽の理解が深まったことで、ORIGINAL LOVEの土台が補強された感じがあって。テンションコードの使い方、グルーヴの作り方もそうだし、演奏技術、ボーカルのテクニックも上がっていると思うし、それは『bless You!』にも活かされていますね。


ーー音楽の歴史をより深く理解することで、「いま、ORIGINAL LOVEとして何をするべきか?」という視点も変わってきたのでは?

田島:どうだろう? それは外側からの意見であって、自分はずっと同じことをやってるんですよ。知識やテクニックが付いたことで、それが先鋭化されているというのかな。ORIGINAL LOVEの音楽というのは、それを活かせるんですよね。もともとルーツミュージック志向だし、アメリカで発祥したロックやポップスを辿って、それを最新の音楽として表現するっていう。それは1stアルバムのときから変わってないですね。

ーーなるほど。『bless You!』に参加しているPUNPEEさん、長岡亮介さんも、ルーツミュージックに根差した音楽を続けていますね。

田島:そういう意識はあるだろうね。PUNPEEはヒップホップの人だけど、ヒップホップという音楽は『リスペクト』という概念がある。それを受け継いで、日本でどうやるか? ということは考えているんじゃないかな。一方でヒップホップは破壊的な音楽でもあって、“全部ブッ壊して再構築する”というスタイルもある。その二律背反的な創造性があるんですよね、ただリスペクトしているだけではなくて。長岡くんのギターテクニックのベースにはカントリーミュージックがある。僕よりも上の世代の人たち、団塊の世代の人たちとプレイしてきたし、あのジャンルではおそらく一番若い世代のミュージシャンだよね。しかもオルタナティブロックや、今のイギリス、アメリカのロック、ヒップホップも知っていて、今の感覚でやってる。アメリカにはそういうタイプのアーティストがけっこういるけど、日本では珍しいかもね。

ORIGINAL LOVE - グッディガール feat. PUNPEE (Love Jam Ver.)

ーーミュージシャンのことでいえば、今回のアルバムには『風の歌を聴け』に参加していた小松秀行さん、佐野康夫さん、村田陽一さんなども参加しています。

田島:彼らには前作の『ラヴァーマン』にも参加してもらってたんですよ。佐野くん、小松くんと久しぶりに演奏してみたら、当時と同じ音になって。20年くらい冷凍保存してたというか(笑)、むしろ、より良くなってたんです。彼らに言わせれば、僕とやらないとああいうサウンドにならないということなんだけど、リスナーにも好評だったし、何よりも僕ら自身が楽しくて。なので今回のアルバムでもやってもらおうと決めてたんです。あとは現在のライブメンバーである村田シゲ、小松シゲル、冨田謙、真城めぐみ、木暮晋也にも参加してもらったから、大きく分けて2セットあって。あとは曲が出来た段階で、当てはめていった感じですね。

ーー最初からアルバムの全体像があったわけではない?

田島:そうですね、曲ごとにバラバラに作っていったので。まず「ゼロセット」が3年前くらいに出来て、この曲が良かったから、スタッフとも盛り上がって「先にシングルで出そう」ということになったんだけど、歌詞がなかなか決まらなかったんです。その後、去年の夏の『Wake Up Challenge Tour』のときに「ゼロセット」をセットリストに入れることになって、その他に「AIジョーのブルース」「アクロバットたちよ」もやって、歌詞を一気に書いたんですね。自分が思っていたことをストレートに書けたし、そこでようやく形になって。アルバムのレコーディングが本格的に始まったのは秋なんだけど、そのときには8割くらい曲はあったのかな。で、あと2曲くらい書いて、全曲が揃って。『ひとりソウルツアー』と重なってたから、かなり大変だったんですけどね。一か八かのレコーディングだったし、1日も遅れられない状態だったから、体調にも気を付けて。めちゃくちゃ白熱してたし、盛り上がりながらやってました。

ーーそういうスケジュールのほうがパワーが出る?

田島:そうかもね(笑)。それも困ったもんというか、もっとゆっくり余裕を持ってやりたいんだけど、どうしてもジタバタしちゃう。『風の歌を聴け』のときもそうだんですよ。制作期間が1カ月くらいしかなくて、まったく0の状態から一気に作って。めちゃくちゃなスケジュールだったけど、馬鹿力が出るというか(笑)。そういう普通じゃない状態の時のパワーによっていものが出来るのかも。

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