パノラマパナマタウン、なぜ走る? 「めちゃめちゃ生きてる」MV撮影から見えた“情熱とユーモア”
大まかな筋立ては、以下の通りだ。音楽を生業とするパノラマパナマタウン。ある日、岩渕がとある女性に一目惚れし、連絡先を渡すことに成功するが、そのことがバンドに思わぬ事態を巻き起こしていくーー。このストーリーは南監督の実体験がベースになっているという。「“めちゃめちゃ生きてる”ってどういうことなのかを考えた末に出てきたのが、死を感じたときだなって。もちろんこのストーリーはフィクションですが、僕自身が過去にほんとに死ぬんじゃないか? という経験をしたことがあるんです。事故的なものだったんですが、死を覚悟したときに、同時に生きることを覚悟したというか。そこで自分の意志を貫かずに死ぬぐらいだったら、意志を持って生きてやる、かつ死んでやる、と思ったんですよね。そのことがベースになってますね」(南)。
撮影は闇組織の男たちに追われるメンバーのシーンからスタートした。このMVの主要になっているのが、この走るシーンである。都内某所の地下歩道で、メンバー4人と闇組織役の4人の男性が全力ダッシュを繰り返す。しかも逃走シーンだけで4パターン。走る8人を後ろから追いかけるカット、並走しながら8人の足元を映し出すカット、正面から走ってくる8人を捉えるカット、そしてMV終盤の岩渕がマイクを握りしめながら逃走するカットだ。数十メートルに渡るダッシュをワンカットごとに何本も行うメンバーと役者陣。1回撮影するごとに、現場にいる全員でリプレイを確認しながら、さらなるリアリティを求めて意見を出し合う。決して妥協せず、丁寧に撮影を重ねていく。毎回気合を入れながら被写体もカメラクルーも全力で走るため、転倒する場面もしばしばあり、逃げ惑う躍動感が自然に出ている。特に後方からと足元を追ったカットからは凄まじい臨場感を味わえるはずだ。総勢8人がくんずほぐれつ、半ば乱闘寸前の殺気を醸し出しながら走る様子は、まさに“めちゃめちゃ生きてる”としか言いようのないものだった。
この段階で岩渕は、演技自体が初めての経験であるため、MVの全体像はどうなるかわからないとコメント。だが、「走るシーンは見どころにしたいとは思っていて。“めちゃめちゃ生きてる!”って感じる瞬間は色々あるけど、僕たちとしては“めちゃめちゃ生きてる=走ってる”というイメージが強かったので、とにかく走りたいなと思いました」と続ける。
また小林氏から話が出た映画のイメージについて聞くと、岩渕は「『トレインスポッティング』のイメージは僕も持っていて。あれも当時のイギリスの今を生きてる若者をテーマにした映画だし、“自分の居場所はどこなんだ?”と感じている主人公が、ハッピーかアンハッピーかという結論は置いておいて、自分のやりたいことをとにかくやる、自分のことは自分で選ぶという内容で。今も自分たちにとって何が正解なのか、何が正しいのかわからない世界だからこそ、ただ走りたい! と思いました」と影響を受けた映画とともに、社会に抗うスタンスとして“走る”シーンをメタファーとして入れていることを明かしてくれた。
地下歩道の映像はシルバーグリーンがかったクールな質感で、ハードボイルドな逃走劇に、少し近未来的な要素を加えている印象だ。田村は「映像はクールですけど、その中でどれだけ人間らしさを出せるかが、監督と俺らの戦いなので(笑)。監督の想定内を超えてやろうって感じはありますよ」と人間臭さが個性の一つでもあるパノラマパナマタウンらしい発言をしていた。浪越は「この枠組みの中でめちゃめちゃ生きてるっていうのを表現できたらと思ってます」と淡々と口にしていたが、実際の撮影では全力でダッシュ。それぞれが全く違ったキャラクターを持つ4人だが、メンバー、全員が120パーセントの出力で今回のMVに臨んでいた。