Chara、ダンスミュージックで際立つ“声”の存在感 新作『Baby Bump』をDJ目線でレビュー

 時にポエットのように、時にスポークンワードのように、その語り口やリズムを使い分けて多彩な表現を聴かせたかと思えば、同時にその印象的な声をザラッとさせたり、スムースにしたり、つぶしたり、空気感を増やしたりして、その声の質感を自在に変えて、サウンド化させていて、ウワモノとして、時にボイスサンプル的にも機能させる。しかも、その質感にリヴァーヴをかけたり、ドライにしたりウエットにしたりして、その威力を増幅させたり、その声を重ねてコーラスにしたり、異なる質感の声を(定位も意識しつつ)並べたりもする。そうやって、オートチューンやハーモナイザーを使うのではなく、(一部トークボックスは使っているが)その魅力や特性を知り尽くした自身の声を効果的に変化させたり、組み合わせることで、歌だけでも、ウワモノだけでも、サウンドだけでもなく、ある種のアトモスフィアとしても鳴らしていることがこのアルバムを特別なものにしている。それが、日本語の詞でありながら、USのR&Bと並べても自然に溶け込んでくれた理由のひとつでもあるだろう。

 声をどう扱うかというのは2010年代のポップミュージックが持ち続けているひとつのテーマだと思うが、Charaは独自のやり方でひとつ答えを出していると思った。このアルバムにおけるSeihoをはじめとする参加ミュージシャンやプロデューサーたちの貢献度は言うまでもないが、最終的にはCharaというボーカリストの声の絶対的な存在に気付かされるアルバムでもあるのだろう。

 ちなみにそのDJの際、僕は日本のアーティストの曲を3曲だけ持っていっていた。それはmabanua「Tangled Up」と、中村佳穂「GUM」と、TAMTAM「Nyhavn」だった。DJをするなら『Baby Bump』からどう繋ぐかを考えてみたりするのも、このアルバムの面白い楽しみ方のひとつかもしれない。

■柳樂光隆
79年、島根・出雲生まれ。ジャズとその周りにある音楽について書いている音楽評論家。「Jazz The New Chapter」監修者。CDジャーナル、JAZZJapan、intoxicate、ミュージック・マガジンなどに寄稿。カマシ・ワシントン『The Epic』、マイルス・デイビス&ロバート・グラスパー『Everything's Beautiful』、エスペランサ・スポルディング『Emily's D+Evolution』、テラス・マーティン『Velvet Portraits』ほか、ライナーノーツも多数執筆。

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