やなぎなぎがトリオ編成で表現したミニマムで静謐な音 『color palette ~2018 Black~』レポ

 今年1月に発表したアルバム『ナッテ』では、糸やひもなどを一本により合わせる「綯う(=なう)」という単語から取られたタイトル同様、これまで以上に幅広い音楽性を丁寧により合わせていくような、繊細で豊かなアレンジを持った作品を完成させたやなぎなぎ。彼女が毎年開催している「色」をテーマにしたライブ企画の最新版『color palette ~2018 Black~』が、東京・Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASUREで開催された。

 この『color palette』は、毎年異なるテーマカラーに沿いながら、通常のツアーとは異なるアレンジや編成、コンセプチュアルな構成によって、彼女の楽曲の新たな魅力が発見できる公演だ。5年目となる今年のテーマカラーは「Black」。彼女自身がMCで「もう、どうなっちゃうの? という感じで、未知の世界です」と告げていた通り、初の5日間連続での開催となり、日ごとにハープ奏者やギタリスト、パーカッショニストなど異なる演奏家を迎えて行なわれた。

 開催4日目となるこの日は、キーボードの山本健太と、ヴァイオリン奏者の吉田翔平を迎えたトリオ編成。会場はテーマカラーの「Black」=夜空をイメージしたセットに、リッチな雰囲気のキャンプテントを模したセットやソファなどが用意され、天井の照明が星々のように会場を照らしている。室内のホール公演でありながら、その様子は夜空のもとでグランピングをしながら開かれる“星空の演奏会”のような雰囲気だ。そこにまずはキーボードの山本健太とやなぎなぎが登場。3rdアルバム『Follow My Tracks』の収録曲「モノクローム・サイレントシティ」でライブをはじめると、まるで夜空の静けさを表現するようなピアノの伴奏と、息遣いまで聞こえてくる余韻を持った歌で、モノクロームの世界が広がっていく。

 この日、まず印象的だったのは、ドラムやベースといったリズム隊が存在しないトリオ編成ならではの、ミニマムで静謐な雰囲気。続く「間遠い未来」からはヴァイオリンの吉田翔平も加わってトリオとなり、ピアノの伴奏にやなぎなぎの歌声と流麗なストリングスが溶け合っていく。ホール会場とあってヴァイオリンの音の伸びも美しく、やなぎなぎの声の魅力をじっくりと伝えるような雰囲気も生まれていた。そうして伝わるのは、やなぎなぎの楽曲ならではの良質な「メロディ」と、それを豊かに歌い上げる「声」の魅力。激しいギター・アレンジが印象的だった原曲とは180°違うバラードになった「トコハナ」では、原曲でサンスクリット語を使って表現していたイントロの幻想的な空気感を、ピアノとヴァイオリンの音色で再現。そこにやなぎなぎの歌声が加わって親密なムードが生まれた。

 中でも序盤の目玉となったのは、ヴァイオリンの吉田翔平との2人編成で披露されたふたつのカバー曲。2ndアルバム『ポリオミノ』の初回限定版で別アレンジでのカバーを披露していた小川七生の「月灯りふんわり落ちてくる夜」(TVアニメ『クレヨンしんちゃん』(テレビ朝日系)のEDテーマ)は、吉田翔平が原曲のシンセなどをヴァイオリンで丁寧に拾いつつ、音数の少なさを逆手に取ったアレンジで魅せていく。続くキリンジの「エイリアンズ」カバーでは、後半にヴァイオリンが一気に盛り上がるパートを加え、その中でキリンジとやなぎなぎという、日本の良質なメロディメイカーの系譜が繋がっていく。そのまま2人で披露された「想像の君」も、隙間をたっぷりと取った歌/演奏ながら、豊かな表現力で観客を魅了していった。

 以降はふたたび3人編成に戻り、森を思わせる照明で夜空の下での演奏会が表現された「無形のアウトライン」や、ピアノとヴァイオリンの掛け合いで魅せた「砂糖玉の月」などを披露。中でも「砂糖玉の月」は、「届かないから/美しい」というサビの切なさが、原曲以上にドラマティックなものになっていた。以降はキーボードの山本健太との2人編成で「ラテラリティ」や「2つの月」を披露。曲ごとにキャンドルの灯が優しい光を放ったり、「2つの月」では天井のランプが2つだけ灯ったりするなど、演出も各楽曲にそっと寄り添うような雰囲気だ。本編終盤は3人編成で披露した「クオリア」のサビで歌とヴァイオリンがユニゾンし、続く「夜明けの光をあつめながら」では、この日と同じくストリングスやピアノが加えられながらも、バンドサウンドによるグルービーな演奏が印象的だった『ナッテ』でのアレンジとは対極の、引き算の美学を伝えるようなサウンドが会場を満たしていく。本編のラストには、しし座で最も明るい恒星の名前を冠した「Corleonis」も披露した。

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