Hi-STANDARDのツアーを目撃できる喜び 『THE GIFT EXTRA TOUR 2018』横浜公演

 Hi-STANDARDのツアーを毎年のように観に行ける幸せ。正直、2000年の活動停止以降、将来こんな日々が訪れるなんて想像もしていなかっただろう。2011年、『AIR JAM 2011』での再始動以降はしばらく不定期な活動が続いたが、今のHi-STANDARDは2016年にシングル『ANOTHER STARTING LINE』を16年ぶりにリリースして以降、毎年秋から冬の間にツアーをしてくれている。特に昨年は18年ぶりとなるニューアルバム『THE GIFT』を携えて、初のアリーナ公演を含む『THE GIFT TOUR 2017』を敢行。筆者も本サイトにて、1年前のさいたまスーパーアリーナ公演の模様をレポートしている(参照:Hi-STANDARDが見せたパンクロックバンドしてのタフさ 『THE GIFT TOUR 2017』総括レポ)。

 あれから1年。当時は2018年の活動については名言していなかったが、結果はご存知のとおり。9月には『AIR JAM 2018』を開催し、11月にはこれまでのキャリアを振り返るドキュメンタリー映画『SOUND LIKE SHIT: the story of Hi-STANDARD』も公開された(参照:Hi-STANDARDによる新たなサプライズ “語り合いたくなる”ドキュメンタリー映画公開までの軌跡)。そしてさらには、昨年のツアーで回りきれなかった地域を中心に巡回するライブハウス&アリーナツアー『THE GIFT EXTRA TOUR 2018』までもを実施してくれた。ここ数年の、この畳み掛けるような展開には、正直驚きを隠せずにいる(個々では活躍していたもののバンドとしては空白となった10年ちょっとを知る者なら、なおさらだ)。

 そんな思いを胸に秘め、また今年もHi-STANDARDのツアーを目撃できる喜びを噛み締めながら、筆者は『THE GIFT EXTRA TOUR 2018』唯一の関東公演となる12月22日の横浜アリーナ公演へと足を運んだ。

 12月14日からスタートしたこのツアーは、徳島、神戸、大阪、広島、横浜、沖縄の計6カ所7公演という決して長いものではなかったが、その内容は相当に濃いものだった。各公演には90年代に共闘した盟友たちや、2000年以降に誕生した、いわば“ハイスタ・チルドレン”といったバンドなどがサポートアクトとして出演。この日の横浜アリーナ公演ではCOKEHEAD HIPSTERSとCrystal Lakeという、非常にバラエティに富んだ3組の競演を楽しむことができた。

 トップバッターを務めたのは、Hi-STANDARDと同期に当たるCOKEHEAD HIPSTERS。当日のMCでも触れられたが、彼らは1999年に一度解散しているため、こういった形でHi-STANDARD主催のライブで共演するのは1998年の『AIR JAM 1998』以来、実に20年ぶりになるという(実際には、2015年11月にBRAHMANが開催したイベント『尽未来際 ~尽未来祭~』で同じ日に出演しているが)。オープニングから「NO WAY」「NO MATTER WHAT YOU SAY "I'M GOING NOW"」「POLICE GOING DOWN」と懐かしい楽曲を連発する彼らは、ハードコアパンクにレゲエやヒップホップの要素を掛け合わせた、文字どおりのミクスチャーサウンドでオーディエンスを圧倒させる。

 筆者が特に驚いたのは、この日演奏された大半の楽曲は90年代に生み出されたものにも関わらず、Hi-STANDARDの楽曲同様に現代においてもまったく色褪せていないという事実。むしろ新鮮に感じられる部分も多々あり、どれだけ彼らが先鋭的なことにトライしてきたのかをこの日の30分で実感できた。会場にいた観客の中には、90年代の彼らを知らない者、あるいは2007年の再結成以降に初めて目にしたという若いリスナーも少なくなかったはずだが、そういったことは一切関係ないというほどの熱量がフロアの至るところから感じられた。

 続いては、2000年代以降のラウドロックシーンを象徴するバンドのひとつ、Crystal Lakeだ。彼らは今年11月に最新アルバム『HELIX』をリリースしたばかりで、この秋にはヨーロッパツアーを敢行するなど、まさに脂が乗った状態での登場となった。不穏なSEに導かれるようにステージに現れたCrystal Lakeの面々は、ヘヴィかつアグレッシブな「Prometheus」からライブを開始する。Ryo(Vo)のグロウルやスクリーム、7弦ギターを駆使した重低音の効いたサウンドと手数の多いリズム、それらが爆音で表現されることにより、会場の空気はピンと張りつめたものへと激変。その後も「Matrix」「Mercury」とモダンなヘヴィナンバーを立て続けに披露すると、フロアにはモッシュサークルやクラウドサーファーの姿が少しずつ増えていった。

 確かにこの日のラインナップ的には、Crystal Lakeのサウンドは若干異質なものだったかもしれない。しかし、「音ややり方は違うけど」とRyoがMCで言ったように、彼らも間違いなくHi-STANDARDからさまざまな影響を受けてこの場所に立っているのだ。そのリスペクトの気持ちを込めて、彼らは自分たちにできる最高のやり方で会場のオーディエンスにCrystal Lakeというバンドとそのサウンドをアピールし続けた。ラストは「Alpha」「Omega」で普段と変わらぬエネルギッシュなパフォーマンスを展開し、最後にRyoが「ありがとう!」と絶叫して横浜アリーナでのステージは幕を下ろした。

 世代を超えた2バンドの熱演を受け、最後にステージに現れたHi-STANDARDの面々はいつもどおりリラックスした表情を見せる。難波章浩(Vo/Ba)の「『THE GIFT EXTRA TOUR』横浜アリーナへようこそ!」を合図に、バンドは「My Heart Feels So Free」からライブをスタート。ここ数年の彼らを観て感じることだが、今のHi-STANDARDは90年代の「スピードと軽やかさ」に「重量感」が加わったことにより、トリオ編成とは思えないほどの太い音と重いビートで過去の楽曲が表現されていく。これにより、最新の楽曲かと錯覚するほどの新鮮さが生じ、ライブを観るたびに毎回新たな発見があるのだ。特にニューアルバム『THE GIFT』リリース後のライブではこれが顕著で、同じ曲でも日によって見え方/聴こえ方が異なるものだから、何度でも観たくなってしまう……まさかHi-STANDARDに対してこんな楽しみ方をする日が訪れようとは、90年代は考えてもみなかった。

 その後もライブは『THE GIFT』からの新曲と往年の代表曲、しばらくライブで演奏されていなかったレア曲を織り交ぜながら進行していく。特にこの日は「This Is Love」(2000年のEP『LOVE IS A BATTLEFIELD』収録)や「Spread Your Sail」(1997年のアルバム『ANGRY FIST』収録)、「Lonely」(1995年のアルバム『GROWING UP』収録)といったオールドファン感涙のレア曲も飛び出し、それらのイントロが鳴るたびに会場からは大歓声が沸き起こった。

 とにかくこの日のライブは、メンバー3人が非常に楽しげに演奏する姿が印象に残った。横山健(Gt/Vo)も気持ち良さげにギターを奏で、MCでは難波とともに下ネタ混じりのトーク(時には下ネタがメインにも)で少年のような笑顔を見せる。また、恒岡章(Dr)も笑みを浮かべながら激しいビートを刻み、曲のエンディングごとにドラムスティックを宙に放り投げるなど、その興奮を隠しきれない様子だ。演奏の合間には難波と恒岡、横山と難波、横山と恒岡がそれぞれ目を合わせたり、あるいは3人が向き合ってアイコンタクトを取ったりと、「リハーサルスタジオでもこうなんじゃないか」と想像できてしまうほどの和気藹々とした姿を見せる。映画『SOUND LIKE SHIT: the story of Hi-STANDARD』を観たあととなると、こういった光景ひとつにも「当たり前のことではないんだ」という思いが湧き上がり、胸が熱くなる……そう感じたのは、きっと筆者だけではなかったはずだ。

 また、この日は「Tinkerbell Hates Goatees」「Pink Panther Theme」「Pacific Sun」とインストナンバーが3曲も演奏された。こういった選曲に対して、長時間歌う難波を休ませるための配慮と受け取ることもできるが、筆者はこれに対しては違った意見を持っている。再始動後のHi-STANDARDを、そしてメンバーそれぞれの活動を観てきた者ならご理解いただけるだろうが、プレイヤーとしての3人の演奏力、表現力は90年代とは比べものにならないほどの成長を遂げている。それは新曲のみならず過去の楽曲へのアプローチからも感じ取れるが、特にそういった要素が顕著に表れるのが先のインストナンバーではないかと思うのだ。中でも「Tinkerbell Hates Goatees」は原曲をより進化させたアレンジで、3人のプレイヤーとしての実力が遺憾なく発揮されている。これは最新アルバム『THE GIFT』からの「Pacific Sun」にも言えることだろう。こういったアプローチに「大人になったパンクロックの在り方」を感じたのは、筆者だけだろうか。

 奇しくもこの日12月22日は2002年に亡くなったThe Clashのフロントマン、ジョー・ストラマーの命日。「パンクはスタイルではない、姿勢だ」という言葉を残したジョーではないが、この日のHi-STANDARDからはそういった姿勢が少なからず感じられたはずだ。

 しかし、そんな筆者の思いとは裏腹に、メンバーはみな少年のように「サイコー!」と連呼する。そのギャップにもHi-STANDARDらしさを感じずにはいられなかった。だからこそ、難波の「いろんな闇を抜けてきたけど、その都度俺はHi-STANDARDの曲に救われてきた。闇の中にいるなら光を探せ、光がないなら自分が輝け!」というメッセージに続いて演奏された「Stay Gold」には、今まで聴いてきた中でも一番胸を打たれたし、だからこそ気持ちが高揚して拳を上げて歌い叫んでしまった。曲を終えたあとには、難波が恒岡、横山に感謝の言葉を贈ったが、それを受けた恒岡が感極まり「難波章浩、恒岡章、横山健 我々がHi-STANDARDです!」と叫ぶ一幕もあり、まるでドラマチックなドキュメンタリー映画のような……それこそ難波の「俺たちがステージに立っていることが、俺たち以上にドラマチックに思ってくれたんじゃない?」という言葉じゃないが、『SOUND LIKE SHIT: the story of Hi-STANDARD』の続きを観ているような気持ちになり、胸が熱くなった。

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