ミスチル 桜井和寿、ナオト・インティライミや寺岡呼人らコラボ作品に見るボーカリストとしての信念

Quattro Formaggi「Stand By Me」(TRICERATOPS+桜井和寿)

 TRICERATOPSが2014年12月にリリースしたアルバム『SONGS FOR THE STARLIGHT』の特典CDに収録されているのが、TRICERATOPSと桜井の共作・Quattro Formaggi名義での「STAND BY ME」だ。

 トライセラは『ap bank fes '12 Fund for Japan』に出演。2014年4月にトライセラがSHIBUYA-AXで開催したイベント『DINOSAUR ROCK'N ROLL 6』のシークレットゲストとして桜井が出演し、その日はトライセラ「FLY AWAY」、ミスチル「Dance Dance Dance」、AKB48「ヘビーローテーション」のカバーなどを披露した。その中の1曲としてすでにあったのがQuattro Formaggiとしての共作「STAND BY ME」。CDの盤面に表されているように、バンド名が意味するのは“4種のチーズピザ”で、それぞれ4人にミドルネームが付いた遊び心溢れる作品に。互いにボイスメモを送り合ってレコーディングに入っていたという。(参考:TRICERATOPS – 4年3か月ぶりのアルバム『SONGS FOR THE STARLIGHT』をリリース)。

 爽やかなバンドサウンドでありながら、楽曲の真ん中に熱量を感じさせ、桜井と和田唱のボーカルの相性は抜群だ。2015年に開催された『MIFA Football Park 1st Anniversary Party』では、桜井のソロステージに和田がサプライズで登場し「STAND BY ME」を披露したこともあった。酒の席での桜井の誘いから始まったQuattro Formaggi。活動は不定期で、分かっているのは彼らの演奏はいつも急に始まるということだけだ。

ナオト・インティライミ「Amor y sol with桜井和寿」

ナオト・インティライミ 「Amor y sol with 桜井和寿」(ヨミ:アモール イ ソル/short ver.) from 7th Album「7」

 ナオトは『ap bank fes ’08』や、ミスチルのツアー『Mr.Children Tour 2009 ~終末のコンフィデンスソングス~』『Mr.Children DOME TOUR 2009 SUPERMARKET FANTASY』でバックコーラスに抜擢され、2010年に3度目のメジャーデビューを果たす。2015年、ナオトは『輝きYELL!』(日本テレビ)に出演した際、「ここまで器用なのはお前だけだよ」という桜井の言葉で前向きになれたと語っていた。その後も2人で食事に行くなど交流は続き、ナオトが今年4月に開催した全国47都道府県 弾き語りツアーの石川公演には、桜井がサプライズ登場。そこですでに「Amor y sol」は披露されていた。ナオトと桜井による共作曲は、ラテン調のサウンドに人生の苦悩と葛藤が綴られており、タイトルはスペイン語で“愛と太陽”を意味している。

 2人が向き合い歌で呼応するMVも印象的だが、ここで注目したいのは楽曲が完成するまでの経緯だ。『輝きYELL!』出演時にナオトは、自信作だったというアルバムに対して桜井から「今回のアルバム、いまいちだったなぁ」と率直な感想をもらったと話していた。桜井にとってナオトは事務所の後輩。「よかったよ」の一言で済ませることもできるが、あえて厳しい言葉を選んだのは、ナオトへの愛情あっての行動だろう。時を経て実現した今回の2人のコラボから見えてくるのは、桜井のナオトに対するリスペクト。「1年経っても鮮度がある作品だと思う」という桜井の公式コメントは、ナオトに対するこれまでの姿勢があったからこそ深みの出る言葉。「もう感慨深いを超えてます」というコメントに、笑みを浮かべるナオトが想像できた。

 バンド名義のため今回は対象外としたが、1995年には桑田佳祐 & Mr.Childrenとしてシングル『奇跡の地球(ほし)』をリリースしたこともあった。1994年にシングル『innocent world』『Tomorrow never knows』『everybody goes -秩序のない現代にドロップキック-』、ミスチル至上最も売れたアルバム『Atomic Heart』をリリースし、社会的な“ミスチル現象”を巻き起こしていた最中の桑田とのコラボ。172万枚の大ヒットを飛ばした、現在も語り継がれる名曲だ。2006年には『ap bank fes’06』、アミューズ主催の『THE 夢人島 Fes.』で再び披露されている。

 桜井のコラボ作品に共通してあるのは、互いに敬意を表した作品への姿勢と、そこから生まれる深い親和性だ。ナオトとのコラボはこれまでの作品と比べてもキャリアの若い相手であり、次の世代にバトンを繋ぐ意味合いも感じられる。『重力と呼吸』のリリース時には、後輩ミュージシャンに向け「音楽をやめたくなるような」アルバムを完成させたとコメントしていた桜井。シーンの第一線を走り続けるミスチルのボーカリストが、次はどのアーティストとコラボするのか。26年目、桜井はまた新たなフェーズに突入している。

■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter

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