ゆず、「マボロシ」に感じた未体験の衝撃 新機軸打ち出した楽曲の世界観を探る

ゆず「マボロシ」に感じた未体験の衝撃

 「マボロシ」はMVやアートワークにおいても、楽曲の世界観と重なる、きわめて刺激的なクリエイティブが展開されている。

 RADWIMPS、サカナクションなどのMVを手がけてきた映像監督・写真家の島田大介のディレクションによるMVは、雨が滴り落ちる水面のシーンから始まる。舞台となっているのは、架空の廃墟。北川、岩沢は別々に登場し、それぞれに異なるストーリーが描かれていく。歌唱、演奏シーンは一切なく、先鋭的なショートフィルムのようなMVだ。全編に渡り陰影を強調した映像も、強いインパクトを放っている。

ゆず「マボロシ」Music Video(Short ver.)

 メインビジュアル、およびジャケット写真は、ファッション、ポートレート、静物など幅広いフィールドで活躍している写真家・北岡稔章が担当。「様々な偶然の出会いがあり愛が生まれるように、偶然の持つ強さを引き出すために縦、横、などは考えず、お二人が出す雰囲気を感じるがままに多重露光を使用し撮影しました」という写真は、水面の揺らぎと感情の起伏をリンクさせた、危うくも美しい仕上がり(楽曲の特設ホームページのトップ画面に指で触れると水面が広がる仕掛けも)。また、このアートワークから派生した写真展『ゆず マボロシ展』が12月7日から東京・CLASKA 8F“The 8th Gallery”で開催。音楽と写真の有機的なコラボレーションが期待できそうだ。

 これまでのシングルの表題曲は“ポップで前向きなアップチューン”もしくは“強いメッセージを放つ”イメージが強かったゆず。楽曲、アートワークを含め、痛みを伴うような切なさ、ダークで陰鬱な世界観を前面に押し出した「マボロシ」は、彼らの音楽世界をさらに広げることになるだろう。デビュー20周年を超えた今も、メジャーシーンのど真ん中で高い人気を維持したまま、自らのイメージを打ち破るような果敢なチャレンジを続ける。固定概念に捉われないその姿勢こそが、ゆずの最大の魅力であり、多くのファンを惹きつけ続ける理由なのだと思う。

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

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