ミニアルバム『my palette』インタビュー
築田行子が語る、ソロデビュー作で挑戦した表現の可能性 「色々な発見がある作品になった」
舞台女優として活動し、2017年のTVアニメ『けものフレンズ』ではフンボルトペンギン(フルル)役で声優に初挑戦。この作品から生まれたどうぶつビスケッツ×PPPのメンバーとして「ようこそジャパリパークへ」でも注目を集めた築田行子。彼女がPPPの単独作「ぺパプ・イン・ザ・スカイ!」や、田村響華とのユニット・ちく☆たむに続いて、西野カナやE-girlsなどとの仕事で知られるCarlos K.のプロデュースでソロシンガーとしてデビューを果たす。「これまでとは違う、新しい自分を見せたかった」というこの作品には、クールなものから弾けたものまで、彼女の新鮮な表情を詰め込んだ5曲を収録。リード曲「君とひこうき雲」では作詞も担当し、ソロシンガーとして新たな一歩を踏み出している。人見知りだった幼少期から、表現の道へと進んだきっかけ、『けものフレンズ』での大ブレイク、そして辿り着いた今回のソロデビュー作『my palette』まで、これまでの歩みを語ってもらった。(杉山仁)
憧れていた歌への道が開いた
ーー築田さんが覚えている、小さい頃の音楽との思い出があれば教えてもらえますか?
築田行子(以下、築田):音楽は小さい頃からずっと好きだったんですけど、初めて音楽とちゃんと関わったのは、小学校の頃に合唱部に入ったことですね。小学校3年生から合唱部をはじめて、みんなで毎日朝練をしたり、放課後も練習をしたり、発表会で歌ったりしていました。
ーー資料によると、築田さんは小学校の頃から人見知りになっていったとあります。合唱部に入って、発表会もあるとすると、かなり緊張したんじゃないですか?
築田:幼稚園の頃までは注目を浴びるのが好きな子だったのに、小学校2年生頃から、急に人前で話すのが恥ずかしくなっちゃったんです。でも、私自身はよく覚えていないんですけど、まだ歌を知らない2~3歳ぐらいの頃から、町内会のみんなで遠出して宴会をしたときに、カラオケでひとりマイクを離さずにずっと持っていたりしたみたいで(笑)。幼稚園のときからお遊戯会も好きだったので、人前で何かを表現することにずっと憧れていたんだと思います。合唱はひとりで歌うわけじゃないですし、歌が好きだったので、すごく楽しかったですね。その頃から、発表することや表現すること自体は好きだったんだと思います。
ーーそこから本格的に表現の道を目指すと決めたのは、高校生の頃だったそうですね。
築田:実は高校3年生の時に進路を決めるにあたって、最初は全然違うことをしようと思っていたんです。当時はお母さんが「看護師がいいんじゃない?」と言っていたこともあって、看護師の専門学校を受けていたんです。でも、それは自分で選んだものではなかったし、私の中ではその覚悟が決まっていなくて……。看護師さんって人の命を預かる仕事じゃないですか。それなのに、「こんなにふわふわした気持ちで目指しちゃいけないんじゃないか?」と思って、自分がもともと「やってみたい!」と思っていた表現の道に進むことに決めました。
ーーそれでお芝居をはじめたんですね。音楽はその頃も近い存在だったんですか?
築田:高校生のときに好きなアーティストさんがいて、「こんな風に歌えるようになりたいな」と思っていました。でも、憧れ過ぎていて、当時は「やりたい!」とは言えなくて。お芝居だとミュージカルもありますし、普通の舞台でも歌うことはあるので、そういう意味でも「歌に近づけたらいいな」とずっと思ってました。当時から、いきものがかりさん、JUDY AND MARYさん、Superflyさんが好きでした。いきものがかりさんは、ほのぼのとした曲もありますけど、気持ちが前向きになれる曲も多くて、その曲に突き動かされるような感じで。
ーー曲を聴いて元気をもらっていたんですね。
築田:そうなんです。中でも高校生のときに聴いた「YELL」は、まさに当時の自分に合う内容で、進路を決めるときの心のモヤモヤを表現してくれるような歌でした。Superflyさんはパワフルな歌声で、自分が歌ってもすっきりするので、よくカラオケで歌ったりしています。私、いまでもひとりカラオケでオールしちゃうんです(笑)。誰かと行くとその人を意識してしまうので、ひとりで行って、思いきり歌ったりしていますね。ジュディマリさんは姉が好きで、一緒に聴いていたら好きになりました。YUKIさんの声ってすごく可愛らしいですし、パンチ力もあって、キーも高いので、歌っていても楽しい。そういうところが好きです。
ーー『glee/グリー』も好きだったそうですね? これはまさにミュージカル的な作品で。
築田:サンタナ(・ロペス)という登場人物の、ハスキーだけどパンチのある歌い方がすごく好きでした。私はきっと、ガツンとしたタイプの歌声が好きなんだと思います(笑)。自分とは違う魅力を持っている人に惹かれて、憧れているのかもしれないですね。
ーーそして2017年にはじまったTVアニメ『けものフレンズ』では、築田さんも参加したどうぶつビスケッツ×PPPの「ようこそジャパリパークへ」が大ヒットすることになりました。築田さんはここで初めて、声優と音楽作品のリリースを経験することになりますが、ここでの活動はどんなものになりましたか?
築田:私にとっては1つ1つが挑戦でした。新しいことに挑戦する勇気が必要で、毎回「頑張らなきゃ!」と思っていました。周りの子たちは、ちゃんとトレーニングを積んできた子が多かったので、「みんなについていかなくちゃ」と思っていましたし、「知らないとか、できないじゃ申し訳ない」という気持ちで、毎日必死でした。
ーーお芝居をするのと声だけで演じるのとでは、だいぶ違うんですか?
築田:全然違いました。声のお芝居は、舞台よりも大きく表現しないと伝わらないですし、ただ声量を大きくすればいいわけでもなくて、緩急の付け方を考える必要があって。最初はすごく難しかったです。それに、声優さんは「このタイミングでマイクの前に入って、この画の動きのときにこのセリフを言って……」ということを考えないといけないですし、人数が多いときはどのタイミングでマイクに入るのかも考えないといけなくて、本当に大変なお仕事だな、と思いました。
ーー看護師を目指すかどうかと一緒で、やるからには本気でやらないといけないですしね。
築田:そうなんです。自分にできるかどうかも分からなかったですし。でも、ユニットで歌わせていただいたことで自分が憧れていた歌への道が開いたと思いますし、それは『けものフレンズ』と出会えたからこそで。本当に感謝しているんです。
ーーどうぶつビスケッツ×PPPでは、『ミュージックステーション』に出演したり、横浜アリーナのような大きな会場でライブをしたりと、色んな機会が生まれましたね。
築田:『ミュージックステーション』は小さい頃から観ていたので、そこに自分が出演するなんて全然実感が湧かなくて。その場に立っていることで精いっぱいでした。生放送前にみんなが「頑張ってね」と応援してくれたり、終わったあとすぐに友達が「観たよ!」と連絡をくれたりして、初めて「私、あの番組に出演したんだなぁ」と実感が湧きました。これも本当に『けものフレンズ』のおかげですね。
ーーいきなりそんなに大きな舞台に立つことになって戸惑いませんでしたか?
築田:あのときの私は、それが大変なことだと思う暇がないくらい、精いっぱいだったんです(笑)。本当に必死過ぎて、苦労した記憶が全然ないくらいなんです。
ーーそれだけ夢中になっていたんですね。ちなみに、築田さんのこれまでの音楽活動を振り返ってみると、どうぶつビスケッツ×PPPが8人で、その後単独作品が出たPPPが5人で、同じくPPPのメンバーでもある田村響華さんとのユニット・ちく☆たむは2人で、今回いよいよひとりでソロデビューということで……。
築田:どんどん人数が減っているんですよね! 何でですかね?(笑)。またこれから増えたりすることはないのかな……?(笑)。
ーー(笑)。人数が減っていくということは、その中で担当する役割が変わったして、気持ちの面でも色々と変化があったんじゃないかと想像したんです。
築田:そうですね。最初は8人だったので安心感がありました。大きなステージに立つときも、「みんなといるから大丈夫」って思えたんですが、人数が減っていくにつれて、自分がアピールしなきゃいけない状況が増えてきて。たとえば、8人のときはMCであんまり喋らなくても、誰かがフォローしてくれるのですが、ちく☆たむではMCをきょんちゃん(田村響華)と2人でやらなきゃいけなくなって、「苦手なこともやらなきゃいけない」という意味でも、すごくいい経験をさせてもらっていると思います。こんな機会を与えてもらえることってなかなかないと思うので、本当にありがたいことですよね。
ーーその中で、歌への向き合い方も変わっていきましたか?
築田:向き合い方というより、「どういう風に歌うか」ということが、ユニットごとに違っていたんです。どうぶつビスケッツ×PPPと、PPPはキャラクターの役柄や立ち位置があるので同じ感覚だったのですが、ちく☆たむはきょんちゃんとの2人のユニットだったので、どんなバランスで歌えばいいかすごく考えました。自分の個性を出すことも必要だし、きょんちゃんと合わせることも必要だし、歌い方もすごく変わりました。一方で、ソロは好きなようにさせていただきました。今までは「バランスを取る」ということをやってきたので、ソロでは自分の歌い方に向き合ったというか、どういう風に歌ったらいいかを、すごく考えさせられているなぁと思います。
ーーお芝居や声優さんのお仕事は、「その役やキャラクターがどういう人なんだろう? どういう子なんだろう?」ということを考える作業だと思うのですが、ソロデビューとなると、「自分がどういう人なのか」ということを考える必要が出てきますよね。
築田:そうなんです。まさにそこがすごく難しくて。私の場合は曲に近づいていこうというか、「この曲がよく聞こえるように歌おう」ということを考えていると思います。私の性格からすると、かっこいい曲を歌っても、ふわっとしてしまいがちなんですよ(笑)。だから、「どこまでかっこよく持っていけるか」というふうに、曲と上手く融合することを考えているんです。ずっと歌に憧れがあったので、最初にお話が来たときはもちろん「嬉しい!」と思いましたけど、今までひとりで活動したことがなかったので、同時に「大丈夫かな?!」という不安もあって。嬉しさと不安と、どっちも半々ぐらいの感覚でした。でも、新しいことをはじめるときって、誰だってそういうものなのかなって思うんです。すごく嬉しかったです。